人工授精のスケジュールについて

人工授精と聞くと、外科的な手法によって身体を人工的に操作されるのではないか、という不安を持たれる方もいるかもしれません。しかし、実際には人工授精と自然妊娠の違いはほとんどないのです。その代わり、人工授精では授精の実施を排卵日に合わせる必要があり、スケジュール管理が非常に重要です。治療期間中におこなわれる検査の種類やタイミング、精子の採取や排卵の方法など、人工授精のスケジュールについて解説します。

人工授精の一般的なスケジュールを把握しましょう

人工授精では、人の手によって卵子と精子を結合させる体外受精や顕微授精と違って、子宮内に精子を注入したあとは自然妊娠とほとんど同じです。卵子が受精できるのは排卵後約24時間、精子が受精能を維持できるのは2~3日間しかなく、このタイミングで受精できないと妊娠は成立しません。そのため、人工授精ではスケジュールの管理がとても重要です。

1. 排卵方法の検討(月経1日目~5日目)

人工授精のスケジュールではまず排卵の方法を検討します。ご本人の希望があり、排卵機能の問題がなければ、排卵誘発剤を使用せずに自然の排卵周期で治療を進めます。排卵誘発剤は、主に卵巣機能がうまく働いていない場合に使用されますが、よりよい卵子を複数個得て妊娠の確率を高めるため、正常な排卵周期を持つ方にも使用されることがあります。

ただし、排卵誘発剤を使用すると卵巣過剰刺激症候群(OHSS)や多胎妊娠のリスクが高まるため、排卵誘発剤の適用は慎重に判断する必要があります。そのため、比較的作用が穏やかな内服薬で治療を開始するケースもあります。

2. 超音波検査(月経10日目~12日目)

人工授精では受精可能なタイミングを確実に見極める必要があり、排卵日の予測は最も重要なポイントです。

排卵予測の検査には、卵胞の発育状態や子宮内膜の厚みを正確に診断するため超音波検査が用いられますが、体内のホルモン濃度を調べる尿検査や血液検査を併用することもあります。超音波検査には腹部エコーと経腟エコーがあり、人工授精では主として至近距離を詳細に観察できる経腟エコーが用いられます。また、卵胞の状態を確認するために人工授精当日も超音波検査をおこなう場合があります。

3. 精液採取

人工授精に使用する精液は、授精当日に自宅またはクリニックの専用室で採取します。採取した精液は培養士による洗浄で白血球や細菌などの不純物が取り除かれ、運動能力の高い良好な精子が多くなるように濃縮されます。このように精子を調整することで受精率や妊娠率が高められます。

4. 人工授精(月経12日目〜14日目)

人工授精を排卵日に合わせるため、排卵日の数日前から始まる「LHサージ」を検査し、排卵日を特定します。LHとは、排卵の引き金となる黄体化ホルモン(黄体形成ホルモン)のことで、排卵の36~48時間前になると大量に分泌されます。

このLHサージが起こったあとの2日間が妊娠する可能性の最も高い時期であり、この期間内に人工授精をおこなう必要があります。そのため、必要に応じて人工授精の36時間前に排卵誘発剤のhCG製剤を注射し、排卵のタイミングをコントロールする場合もあります。

人工授精の処置は、針の代わりにカテーテルと呼ばれる細長い管がついた注射器で子宮内に精子を注入するだけで、時間は10~15分程度で終わります。なお、精子の注入を開始する前に超音波検査で卵胞の状態を確認することがあります。人工授精が終了した後はそのまま帰宅して普段と同じように過ごせますが、人工授精当日は感染予防のためセックスやプール、入浴は控え、シャワーを浴びる程度にとどめましょう。

5. 排卵と黄体機能の確認(月経14日目以降)

人工受精後は排卵と黄体機能を確認するため、血液検査をおこないます。排卵後、LHとFSH(卵胞刺激ホルモン)は急激に減少します。また、排卵を終えた卵胞が黄体に変化して、黄体ホルモン(プロゲステロン)を分泌します。黄体ホルモンによって、子宮内膜が厚くなり受精卵が着床しやすくなるのです。

黄体機能が十分に働いていない場合は、黄体を補充するための投薬治療(黄体補充療法)をおこなうことがあります。

排卵方法別のスケジュール

人工授精を自然周期でおこなう場合と排卵誘発剤を使用する場合では、スケジュールに若干の違いが生じます。人工授精が適応される不妊の原因には、精子の問題やED、射精障害など男性側に不妊因子がある場合と、女性側の性腺や子宮機能が不妊因子となっている場合、さらに原因不明の不妊があります。個々の不妊因子や身体の状態によって、人工授精を自然周期でおこなうか排卵誘発剤を使用するかを決定します。

自然周期の場合

自然周期で人工授精をおこなう場合、LHサージが起こる予測排卵日の2~3日前に受診し、超音波検査で卵胞の大きさや子宮内膜の厚みを確認します。あわせて排卵期に最大分泌量となるエストロゲン(卵胞ホルモン)の分泌量を調べることもあります。これらの検査結果から、人工授精の実施日を決定します。自然周期を選択するケースには、正常な排卵周期を持ち排卵誘発を希望しない方や、排卵誘発剤の効果が弱いと予想される方などがあります。

排卵誘発剤を使用する場合

排卵に問題がある場合は排卵誘発剤を使用しますが、正常な排卵周期を持つ方でも妊娠率を上げるために排卵誘発剤を使用することがあります。排卵障害があると基礎体温が上がらず卵胞の発育も進みません。このようなケースでは月経開始3~5日ごろから排卵誘発剤の投与を開始し、月経10日目ごろ超音波検査で卵胞の発育状態を確認します。

このタイミングで排卵の兆候がみられないようであればhCG注射薬に切り替えますが、卵巣過剰刺激症候群と多胎妊娠のリスクが高まるため、注意深く経過を観察する必要があります。hCG製剤を投与すると36~38時間後に排卵するので、投与から36時間後に人工授精をおこないます。

人工授精当日のスケジュール

人工受精当日は、男性側の精液採取(採精)と人工授精の処置をおこないます。採精は人工授精当日にご自身でおこなっていただきます。人工授精にかかる時間は処置後の安静を含めても十数分で済み、処置終了後はそのまま帰宅して普段どおりの日常生活を送れます。

採精の流れ

人工授精に使用する精液は自宅かクリニック内の採精室でマスターベーションにより、所定の容器に採取します。射精されたばかりの精液はネバネバしていますが、30分ほど経つと液化してサラサラになります。院内で採精した場合は容器のまま37℃程度に保温され、液化を待ってから調整を始めます。

洗浄・濃縮作業では、顕微鏡で精子の数と状態を確認し、精液に交じった白血球や細菌などの不純物を取り除いた後、運動性の高い良好な精子に濃縮されます。なお、良好な精子を多く得るための適切な禁欲期間は2日以上7日以内とされています。

奥様が人工授精する流れ

人工受精当日は卵胞の状態を確認するため、事前に超音波検査をおこなう場合があります。その後、処置室にて人工授精をおこない、しばらく安静にして頂いた後、注意事項や今後の検査日程などについて説明を受け、終了となります。人工受精後、排卵の確認と黄体の状態を血液検査で確認し、黄体機能に低下がみられる場合は着床を促すために黄体補充療法をおこないます。

人工授精をおこなう回数

人工授精の場合、治療1回(1周期)の妊娠率は5~10%ですが、この確率は3~4回目までといわれています。5回目以降になると、若年の女性でも人工授精で妊娠に成功する確率は3~5%程度に低下するため、治療回数は1~5回までが一般的です。人工授精を一定の回数おこなっても妊娠に成功しない場合は、体外受精などART(生殖補助医療)への移行が推奨されます。

まとめ

人工授精には「人工」という言葉がつくため、敬遠する方もいらっしゃいますが、精子を子宮内に注入する以外は自然妊娠とほとんど変わるところはありません。ただし、排卵日を正確に予測し、2~3日間しかない妊娠可能日に着実に人工授精の処置をおこなう必要があります。そのために排卵周期を把握し、排卵誘発剤を使用して排卵の数とタイミングを上手にコントロールすることが大切です。

男性側では適切な禁欲期間を設けて十分な量の精液を採取し、洗浄・濃縮の過程で優良な精子をより多く集めることが妊娠率の向上につながります。人工授精では、月経開始から精子注入までの2週間をきちんと管理し、計画どおりに進めることが妊娠成功への第一歩となりますので、医師とよく相談のうえ、スケジュールを立てましょう。

当院は体外受精・不妊治療専門院として、患者さま一人ひとりに合った最適なスケジュールで不妊治療をご提案いたします。不妊治療をお考えの方はご相談ください。

監修医師紹介

小松 保則

六本木レディースクリニック

小松 保則医師

(こまつ やすのり/Yasunori komatsu)

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  • 経歴
  • 帝京大学医学部付属溝口病院勤務
  • 母子愛育会総合母子保健センター愛育病院
  • 国立成育医療研究センター不妊診療科
  • 緑風荘病院 血液浄化療法センター
  • 六本木レディースクリニック勤務
  • 資格・所属学会
  • 日本産科婦人科学会 専門医
  • 日本産科婦人科学会
  • 日本抗加齢医学会
  • 日本産婦人科内視鏡学会

体外受精・不妊治療の六本木レディースクリニック