不妊治療には段階がある?各ステップの治療とステップアップのタイミングを解説MV
不妊治療はより高度な治療法に段階的に切り替えながら妊娠を目指す「ステップアップ」という考え方があります。
どのタイミングで切り替えるのか、疑問に思う方もいるかもしれません。また不妊治療で実際にどのような治療をおこなうのか、把握しきれていない方もいるのではないでしょうか。

この記事では、各ステップごとの治療内容の紹介とともに、ステップアップするタイミングやその判断基準について解説します。

そもそも「不妊」とは?定義と原因

子どもを望む健康な男女が妊活をしているにも関わらず、不妊期間(妊娠できない期間)が1年以上に及ぶ状態を「不妊症」と定義します。

適切な治療を受けるためには、検査で不妊原因を特定することが大切です。不妊の原因はさまざまで、女性側・男性側のどちらかにある場合もあれば、双方に原因があるケースや特定が難しいケースもあります。

女性の不妊症の原因

女性の不妊症の主な原因には、排卵・卵管・子宮・頸管・免疫に関わるものがあり、特に排卵因子と卵管因子が原因となるケースが多いといわれています。

以下では、女性の不妊症の原因についてそれぞれ解説します。

排卵因子

規則的に月経がある女性であれば、月経開始から2週間前後で排卵が起こるのが一般的です。しかし月経不順の場合、月経があっても無排卵となっている場合があります。卵子を排卵できない場合は妊娠ができず、不妊の原因となります。

肥満や極端な痩せ型の方、ホルモンや過度なストレスなどで、排卵障害が起こる場合があります。

卵管因子

子宮と卵巣をつなぐ通り道を「卵管」と呼びます。精子が卵管を通って卵子と出会うことで受精しますが、何らかの原因で卵管が塞がっていたり、狭くなっていたりすると受精ができません。
この場合は、精子が卵子に到達できないことで妊娠に至らず、不妊となります。

卵管に炎症が起こっていたり、子宮内膜症による癒着で卵管が詰まっているなどが考えられます。

子宮因子

子宮の形が変形していたり、子宮内膜の状態が良好でないと、受精卵(胚)が着床できず、不妊の原因となります。
子宮内膜ポリープや子宮筋腫の疾患や、生まれつきの形態異常などが原因として挙げられます。

頸管因子

子宮頸部は、粘液で満たすことで精子の通過性を上げる働きがあります。しかし炎症などによって粘液量が分泌されない場合、精子が通りにくくなり、不妊の原因となることがあります。

免疫因子

免疫異常により、精子を阻害する抗体や精子の運動率を低下させる抗体を持っている場合、精子が通過できず、不妊の原因となることがあります。

男性の不妊症の原因

男性側の不妊症は、造精機能障害(精子の数や運動率が低い)・性機能障害(勃起・射精ができない)・精路通過障害(精子の通り道が閉鎖している)の3つが主な原因です。

造精機能障害

精子が作られる過程で何らかの異常があると、精子の数が少ない、精子の運動率が悪い、形が悪いなどが生じる場合があります。精子の所見が悪いと受精率が低下し、不妊の原因になります。

性機能障害

何らかの原因で勃起ができない、射精ができない性機能障害が生じると、性交渉ができず不妊原因となります。
性機能障害となる要因としては、神経性や血管性もありますが、ストレスやプレッシャーによる精神的な要因も大きいとされています。

精路通過障害

精子は正常に作られているものの、精路が塞がることで精液中に精子が確認できない状態を精路通過障害といいます。
要因としては、先天的な精管欠損、炎症による閉塞、鼠径ヘルニア手術などが挙げられます。

原因がわからない場合

不妊検査を受けても、原因が特定できないケースがあります。これは「原因不明不妊」とも呼ばれ、不妊の約10〜15%を占めるとされています。さらに、近年は晩婚化の影響で不妊に悩む女性が増えており、原因不明不妊の割合も増加傾向にあるといわれています。

この主な要因として加齢が関係していると考えられており、年齢を重ねることで精子や卵子の機能が低下している可能性が指摘されています。実際に、不妊の原因が特定できない割合は夫婦の年齢が高くなるほど上昇するとされています。

不妊の原因を特定するには?主な不妊検査

治療を始める前に、男女ともに不妊検査を受ける必要があります。検査結果に応じた適切な治療法を選択し、治療計画を立てるためです。なるべくご夫婦で来院して、検査を受けましょう。

ここでは、主な不妊検査でおこなわれる検査内容を男女ごとにご紹介します。

女性の検査

女性の不妊検査は、月経周期に合わせて実施することがあるため、複数回に分けて受ける場合もあります。女性側の検査内容は下記のとおりです。

基礎ホルモン検査 採血によって、卵巣の働きや、排卵障害の原因となるホルモンを調べる検査
超音波検査 膣内にプローブを挿入して、卵胞チェックや婦人科疾患の診断をおこなう検査
尿中LH検査 尿で排卵時期を予測する検査
卵管通水検査 卵管に生理食塩水と空気を流し、通過性を確認する検査
性交後検査(フーナーテスト) 検査の前夜か当日早朝に性交渉したあと、女性の頸管粘液と精子の適合性を調べる検査
高温期採血 高温期7日目前後(6~8日目)に採血し、黄体機能を調べる検査
甲状腺機能検査 2種類の甲状腺ホルモンと甲状腺刺激ホルモンを測定する検査
抗ミュラー管ホルモン(AMH) 卵胞から分泌されるホルモンを調べ、卵巣予備能を測定する検査
抗精子抗体 血液検査によって、女性の抗体を調べる検査
風疹検査 風疹抗体価を測定する検査
感染症採血 感染症の有無を調べる検査
クラミジア抗原検査 卵管通水検査前にクラミジア感染の有無を調べる検査
子宮頸がん検査 子宮頸がんの有無を調べる検査
子宮鏡検査 子宮内膜の状態をチェックする検査

なお、実施する検査項目や内容は、クリニックにより異なる場合があります。不妊治療を受ける方が、上記検査をすべて受けなくてはならないわけではありません。

男性の検査

男性側の検査は、下記のとおりです。

精液検査 精液の量・濃度・運動率・奇形率・白血球数を調べる検査
精子DFI検査 より詳しく精子の機能や質を調べる検査
感染症採血 院内感染予防のため、感染症の有無を調べる検査

男性の場合、精液検査と感染症採血が一般的な検査になります。

その他の検査

六本木レディースクリニックでは、前述した不妊検査以外にも、自費診療で受ける検査「不妊ドック」や「アレルギー39検査」をご用意しています。
アレルギー39検査は、潜在的なアレルギー物質を特定し、妊娠前から妊娠後までの体調管理に役立てることを目的としています。

不妊治療のステップとは?

不妊治療では、段階ごとに治療法を変えていきながら妊娠を目指します。
35歳未満であれば、タイミング療法→人工授精→生殖補助医療(体外受精・顕微授精)といった、3ステップで治療を進めるのが一般的です。

ステップ1:タイミング療法

タイミング療法は、最初のステップとして実施されることが多い不妊治療です。医師が予測した正確な排卵日をもとに、最適なタイミングで性交をおこなうことで妊娠を試みます。

タイミング療法は、女性に排卵があり卵管の詰まりがないこと、さらに男性の精液の所見が良好であること、つまり自然妊娠が可能であることが前提となります。年齢が比較的若く、不妊期間も長くない場合に対象となります。

詳しくはこちらの記事でも解説しています。
>「タイミング法とは?正しい方法や成功率を高めるポイントを解説」を読む

ステップ2:人工授精(AIH)

人工授精は、受精しやすいように調整した精子を人工的に子宮に注入する方法です。タイミング療法と同様に、医師が排卵日を予測し、最も妊娠しやすいタイミングで精子を注入します。
自然妊娠に近いため身体の負担や金銭的な負担が少なく、タイミング療法よりも妊娠率が高いのがメリットです。

人工授精は、性交障害がある場合や、精子の所見がやや良好でない場合などに適応となります。また、女性側も排卵があり、卵管の詰まりがない場合が前提です。

詳しくはこちらでも解説しています。
>「人工授精(AIH)とは」を読む

ステップ3:生殖補助医療

一般不妊治療で妊娠に至らなかった場合、生殖補助医療が検討されます。生殖補助医療とは、採卵や胚移植などの高度な技術を要する治療の総称です。
主に体外受精と顕微授精があります。

詳しくはこちらでも解説しています。
>「生殖補助医療(ART)」を読む

体外受精(IVF)

体外受精は、卵子を取り出して身体の外で精子と受精させ、受精卵(胚)を子宮に戻して着床を促す方法です。
採卵では、より多くの卵子を得るために、卵巣を刺激して卵胞を育ててから採取するのが一般的です。採卵して受精させたあと、培養器で受精卵(胚)を数日育ててから子宮内に移植します。

卵管に詰まりがある、子宮に異常がみられるなど、自然妊娠が困難な場合に適応となります。

詳しくはこちらの記事でも解説しています。
>「体外受精(IVF)とは」を読む

顕微授精(ICSI)

顕微授精は、顕微鏡で観察しながらひとつの精子を吸引し、人工的に卵子に注入して受精させる方法です。体外受精では、卵子に10万個もの精子をふりかけて精子自体の力で受精するため、受精方法が異なります。

顕微授精の受精率は約70〜80%と高い確率で受精が期待でき、精子の運動性が低い、または精子数が極端に少ないなどの重度の男性不妊の場合に、顕微授精が適応となります。

詳しくはこちらの記事でも解説しています。
>「顕微授精(ICSI)とは」を読む

段階ごとに不妊治療をおこなうのはなぜ?

不妊治療は心身への負担はもちろん、費用と時間もかかるため、できるだけ効率よく最短の妊娠を目指すことが求められます。一定期間治療法を試して効果が出ない場合、次の治療へステップアップしていくことで、患者さまの身体的・精神的・経済的負担を軽減し、また妊娠確率を高めるメリットがあるのです。

不妊治療はさまざまな検査をおこない、不妊の原因や卵子・精子の状態を把握したうえで、適切な治療方針が立てられます。
女性の年齢がまだ若い場合や不妊原因が特定できなかった場合に、ステップアップ治療を数周期ずつ、段階的に実施するのが一般的です。

しかし不妊原因や年齢によってはタイミング療法からはじめるのではなく、体外受精などの治療法をピンポイントでおこなった方が、より効率的なケースもあります。

ステップアップのタイミングはどこで判断する?

ステップアップの判断は通常、医師が判断します。これまでの妊娠成功実績や傾向などをもとに1〜5回を目安とし、妊娠に至らなければ次のステップアップを提案することがあります。
また回数だけでなく、年齢や不妊原因も判断材料となる重要ポイントです。

年齢や不妊の原因をもとに検討

年齢や不妊原因などを総合的にみて、どの段階からステップアップしていくか検討します。
加齢によって卵子の数や質が低下することが明らかになっているため、年齢により治療法を変えなければなりません。特に早期に治療を実施すべきなのは、35歳以上の方です。男性も同様に精子の質の低下がみられます。

また子宮筋腫や子宮内膜症を合併されている方も、早い年齢から治療を進めていく必要があるでしょう。
このように年齢や不妊原因によって段階的なステップアップだけでなく、早期に生殖補助医療(体外受精や顕微授精)へ進む判断をすることもあります。

「ステップダウン」する治療法もある

不妊治療は、タイミング療法→人工授精→生殖補助医療へとステップアップしていくのが一般的です。しかし年齢を重ねるにつれて卵子の数や質の低下、女性ホルモン分泌量の減少などにより、妊娠率が低下します。

妊娠の機会を逃さないため、女性の年齢が高い場合は始めから妊娠率が高い体外受精から治療をスタートすることもあります。
また、若年層でも一般不妊治療での妊娠が困難と考えられる場合に生殖補助医療からスタートするケースもあります。

これらのケースの場合、ご本人の希望や治療期間によっては、人工授精やタイミング療法にステップダウンしていくこともあります。

タイミング療法から人工授精へのステップアップ

タイミング療法でなかなか妊娠に至らない場合、人工授精へステップアップを検討します。

人工授精へのステップアップは、5回程度を目安(半年程度)とするとよいでしょう。統計的に、6回目以降に妊娠する確率は低く、他の治療が効果的であるとされています。

人工授精から体外受精へのステップアップ

人工授精も同様に、6回目以降の妊娠率は頭打ちとなる傾向にあるため、5回を目安に体外受精へのステップアップを検討します。

また年齢が35歳以上の場合は、5回を待たずに早めに体外受精を検討する場合もあります。

体外受精から顕微授精へのステップアップ

体外受精は、4回目までに妊娠する割合が多いとされています。体外受精で受精率が悪かった場合や受精障害がある場合、顕微授精へのステップアップを検討します。

また卵子の数が少ない、精子の数が少ない、運動率が低いなどは、受精率の高い顕微授精が適している場合があります。

不妊治療はどこまで保険が適用される?

これまで多くの不妊治療は保険適用外でしたが、2022年4月より保険が適用され、基本的な不妊治療は保険診療で受けられるようになりました。

保険適用の対象となった不妊治療は、主に以下のとおりです。

〈一般不妊治療〉

  • タイミング療法
  • 人工授精

〈生殖補助医療(ART)〉

  • 採卵
  • 採精
  • 体外受精
  • 顕微授精
  • 受精卵・胚培養
  • 胚凍結保存
  • 胚移植

なお、生殖補助医療に関しては年齢・回数制限が設けられているため注意が必要です。

詳しくはこちらの記事でも解説しています。
>「不妊治療の費用はいくらかかる?保険適用の条件や範囲についても解説」を読む

大切なのは自分に合った治療法で取り組むこと

年齢・身体の状態・体質・環境などを踏まえて、ご自身に合った不妊治療で取り組むことが大切です。ステップアップのタイミングは人それぞれで、医師との話し合いのなかで、治療回数が増えたり減ったりすることもあります。医師が患者さまのご希望を聞いたうえで、お互い納得した治療方針で進めていくことが重要です。

不妊治療専門の六本木レディースクリニックでオーダーメイドの治療を

不妊治療は段階的に治療を進める場合もあれば、患者さまの年齢やお身体の状態に合わせてピンポイントに治療を選択する場合もあります。いずれにしても大切なのは、患者さまに合った治療法で取り組むことです。

六本木レディースクリニックでは、年齢や不妊期間はもちろん、精神的・身体的・経済的な面も考慮し、最適な治療法の選択や組み合わせをおこなうオーダーメイド治療をおこなっています。従来のステップアップ治療だけでは、妊娠率だけでなく治療に対する満足度にも限界があると考えています。

患者さま一人ひとりに合った治療をおこなうことが当院のコンセプトです。不妊にお悩みの方は、不妊治療専門の当院にぜひご相談ください。



仕事や趣味を続けながら、無理のない不妊治療を

監修医情報

六本木レディースクリニック
小松保則医師
こまつ やすのり/Yasunori komatsu

ドクターのご紹介

経歴
帝京大学医学部付属溝口病院勤務
母子愛育会総合母子保健センター愛育病院
国立成育医療研究センター不妊診療科
六本木レディースクリニック勤務
資格・所属学会
日本産科婦人科学会 専門医
日本産科婦人科学会
日本生殖医学会
日本産科婦人科内視鏡学会

運営者情報

運営クリニック 六本木レディースクリニック
住所 〒106-0032
東京都港区六本木7-18-18 住友不動産六本木通ビル6F
お問い合わせ 0120-853-999
院長 小松保則医師