不妊症治療の第1のステップ
不妊症治療というと、必ず最初に取り上げられるのがタイミング法です。妊娠しやすい日を予測して、その日に性交渉をもつという方法です。
一般に女性の月経周期は25日から30日で、このサイクルが体のリズムとなっています。体調に問題がない人が基礎体温を測ると、月経開始から排卵までの期間は低めの基礎体温で推移します。その後、基礎体温がいったん大きく下がったあと、急激に上昇するときに排卵が起こります。排卵後、妊娠が成立していないと、基礎体温が高いまま推移します(図1)。
図1 女性の基礎体温
この基礎体温のサイクルから排卵日を予測します。基礎体温表を数か月つけてみると、自分でも排卵日がだいたいわかります。心配ならば、予測される排卵日前後に市販されている検査薬で確認してみてもよいでしょう。
妊娠可能性が低い排卵日当日の性交渉
排卵日が予測できたら、いつ性交渉をもてばよいのでしょうか。実は、性交渉のベストのタイミングは、排卵日当日ではありません。
海外の調査研究によると、最も妊娠しやすいのは排卵日の前々日であり、次いで前日、その次に排卵3日前であることが示されています。排卵5日前や排卵日の当日以降の性交渉では妊娠率は低いので、注意が必要です(図2)1)。
図2 排卵日前後の妊娠率
専門医療施設で指導されるタイミング法とは
タイミング法は、基礎体温を測り、自分で排卵日が予測できれば試すことができますが、より正確な排卵日を知るためには、基礎体温表を持参して、専門医療施設を受診するとよいでしょう。
初診時に必ず行われる超音波検査(経腟超音波)では、卵胞の大きさ、つまり卵胞の発育状況が把握できます。卵胞は18~22mm程度になると排卵しますから、その発育状況と基礎体温表を参考にして予測します。その他、黄体形成ホルモン(LH)が排卵時に大量に分泌されることから、尿検査で確認することもあります*。
検査で特に問題がなければ、タイミング法が行われます。タイミング法を始めて1~2周期は、排卵後の卵胞の確認やフーナーテストで異常の有無を確かめます。フーナーテストとは、性交渉をもった後の精子の動きを見る検査です。性交渉をもった後、12時間以内に膣内や子宮頸管内の粘液を取り、顕微鏡で精子が十分に運動しているかを確認します。
タイミング法で妊娠できると考えられるのは、女性の年齢が35歳以下であること、抗精子抗体(精子を異物と認識して攻撃してしまうもの)がないこと、卵管の癒着や閉塞がないこと、フーナーテストの結果が良好であることです。
なお、ホルモンバランスが悪かったり、月経周期が不規則だったりする場合、ホルモン剤や排卵誘発剤を使用しながら、タイミング法を行うこともあります。
* 尿中LH簡易測定は、卵胞が16~17mm程度になったら、1日1回程度行います。自宅で検査キットを使い自分で検査することもできます。尿中LHが陽性になったら、性交渉をもつと妊娠しやすいと考えられます。
タイミング法で知っておきたいこと
タイミング法による1周期あたりの妊娠率は、1.3~4.1%です2)。回数を重ねれば妊娠率は高まりますが、1年程度で頭打ちになるため、1年程度、タイミング法を実施して、妊娠しなければ、治療のステップアップを考慮しなければなりません。女性が高齢の場合は、6か月程度でタイミング法を終了する場合もあります。
<参考資料>
1)Practice Committee of the ASRM. Fertil Steril. 2017; 107(1): 52-8.
2)吉村泰典(監), 生殖医療ポケットマニュアル. 医学書院 2014