受診する前に
「そろそろ不妊症治療をしたほうがいいのでは」と思っていても、受診するのをためらっていませんか?
受診したら、「どんなことを聞かれるのだろう」「どんな検査をするのだろう」……と、不安を感じるかもしれません。でも、大丈夫。
自分の体のことや検査の意味を理解していれば、不安になることはありません。そして、ドクターとよく話し合い、納得して自分にあった治療を行いましょう。
検査の目的を知っておこう
不妊症治療のために受診すると、さまざまな検査が行われます。こんなにたくさん検査するのかと驚くかもしれませんが、すべて必要な検査です。
不妊症の検査の目的は、次の3つに大きく分けられます。
第1は、「妊娠しない原因を探る検査」です。受診すると、だれもが最初に受ける検査で、基本検査とも呼ばれます。妊娠にかかわる部位、機能について検査し、どこに妊娠できない原因があるのか、あるとしたらその原因が何かを調べます。女性の場合、月経周期に合わせて行う検査があるので、検査をすべて終えるためには何回か時期を変えて受診する必要があります。
また、不妊症は男性が原因の場合もありますから、男性も検査しなければなりません。専門クリニックに初めて受診する場合、これからの検査や治療についての考え方など、夫婦でよく理解するためにも2人で行くことをおすすめします。
これらの検査で、異常が疑われる場合は、続いてその原因を調べる精密検査を行います。
第2は、「治療方針を決めるために確認する検査」です。女性の卵巣はふつう加齢によって機能が低下しますが、個人差も大きいとされています。卵巣の状況によって、治療をスピードアップさせる必要があるかどうかを確認する必要があるのです。
第3は、治療するうえで重要な「排卵時期を調べる検査」です。
このように、検査はそれぞれ目的があります(表1)。しかし、検査の種類も数も多いので、段階を追って検査をすると、時間的なロスが生まれます。そこで、不妊症の検査は、一括して効率的に進められるようにスケジュールを組んで行います。それでも、通常、2か月程度かかります。
表1 不妊症検査の目的
(1)不妊症の原因を調べる検査(基本検査)……異常が疑われる場合、精密検査を行う。
(2)治療方針を決めるための検査……卵巣の状況を把握して、どのような期間で治療を進めるかを知る。 (3)排卵時期を調べる検査 |
基本検査の内容は
クリニックによって検査の手順や方法はさまざまですが、一般的な不妊症治療で受ける検査の一覧表を示します(表2)。男性の検査は基本的に1回の受診で済みますが、女性は月経周期に応じて数回、受診が必要です。できれば、受診前に、基礎体温表をつくっておくと、検査の日程が立てやすくなります。そして、初診を夫婦一緒に受けておくと、ドクターから治療の内容や治療方針を聞くことができ、また、自分たちの考えを伝えるよい機会になります。
表2 不妊症治療で受ける検査の一覧
女性 | 主に初診時から数回目までの受診時 | ・問診
・内診 ・経腟超音波検査 ・基礎体温の指導あるいはチェック ・血液検査(AMH*1、クラミジア、甲状腺機能検査) |
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月経周期に合わせて行う検査 | 月経期(2~4日目) | ・超音波検査
・ホルモン検査(FSH、LH、PRL、E2)*2 |
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月経終了~排卵まで
(低温期) |
・子宮卵管造影(HSG)
・ソノヒステログラフィー(sonohysterography ; SHG) ・ホルモン検査 |
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排卵期 | ・ホルモン検査(LH、E2)
・フーナーテスト ・頸管粘液検査 |
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黄体期(高温期) | ・ホルモン検査(P*3、E2)
・超音波検査 |
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男性 | ・問診
・精液検査 |
*1 AMH:抗ミュラー管ホルモン
*2 FSH:卵胞刺激ホルモン、LH:黄体形成ホルモン、PRL:プロラクチン、E2:エストラジオール
*3 P:プロゲステロン
基本検査のなかで、安易に考えられがちなのが問診です。問診表に書き込んでいても、明確でない点などは、ドクターから追加で質問されます。問診には、不妊症の原因を探るヒントがあるのです。結婚してからどのくらい経過しているのか、妊娠を望んで定期的に性交渉を持っている期間や性交渉の状況など、自分たちには当たり前のことであっても、あいまいに伝えたり、不正確だったりすると、正しい判断ができません。
それぞれの問診項目についてしっかりと確認し、客観的に正確に伝えることが大切です。あらかじめ、表3のような項目について、答えの要点をまとめておくとよいでしょう。
表3 おもな問診項目
女性に対する問診項目例
●自分のこと
年齢、体重、身長、既往歴、 初潮の年齢、月経の状況(月経周期や期間、量、月経痛の有無、月経前の症状の有無) 最終月経 ●受診理由について 受診のきっかけ、これまでに不妊症治療を受けたことがあるのか、受けた場合はその内容と経過。 ●性生活について 結婚した年齢、不妊期間、性生活の頻度 妊娠・分娩歴(中絶の有無) ●気になること、希望 ●日常生活について 喫煙、飲酒の習慣の有無 |
男性に対する問診項目例
●自分のこと
年齢、体重、身長、既往歴(糖尿病、おたふくかぜ、性感染症など) ●受診理由について 受診のきっかけ、気になること ●性生活について 性欲の有無、勃起・射精について、性行為は1週間に何回か……など ●日常生活について 喫煙、飲酒などの習慣の有無 |
検査でわかることは?
基本検査では、多くの検査をして不妊症の原因になっている可能性を検証していきます。排卵に問題があるのか、卵管に支障があるのか、頸管(けいかん)に問題があるのか、男性側に問題があるのか……。
内診台に上がり、視診や触診されるだけで、ストレスが溜まってしまう人もいるかもしれません。また、プライベートなことをいろいろ質問されて負担に感じるかもしれません。しかし、基本検査は、不妊症治療のスタート地点で、だれもが受ける検査です。それぞれの検査の目的を知っておくと、検査に前向きに取り組めるでしょう。
《参考文献》
吉村泰典(監), 生殖医療ポケットマニュアル. 医学書院 2014
竹田省,田中温,黒田恵司(編), データから考える不妊症・不育症治療 希望に応える専門外来の診療指針. メジカルビュー社 2017