体外受精をはじめとした不妊治療は治療期間がかかり、何度も通院しなけらばならないと不安を感じている方が多いのではないでしょうか。仕事の都合や日常生活と両立して続けられるかが気になるところです。しかし、体外受精にはさまざまな手法があり、治療期間や通院回数を短縮することもできます。
この記事では、体外受精に関して不安を抱える方向けに、スケジュールや流れをわかりやすく解説します。
目次
体外受精のスケジュールは患者さまによって異なります
体外受精の通院スケジュールは、治療方法やクリニック、患者さまによって多少異なります。
体外受精は一人ひとりの身体や年齢、置かれている環境に応じて適した排卵誘発方法が変わってくるからです。
排卵誘発剤は、より多くの卵子を採卵するために卵巣を刺激する薬剤で、その種類や方法はさまざまあります。この排卵誘発剤の有無や方法の選択によって、体外受精のスケジュールには個人差が生じます。妊娠判定までの通院回数は、平均6回程度です。多い人では7〜8回になる場合もあります。
ここでは、主に用いられる卵巣刺激方法をご紹介します。
自然周期法
体外受精では排卵誘発剤を使うことが一般的ですが、自然周期法は排卵誘発を使わず、自然に育った卵胞を採取する方法です。内服や注射が必要ないため、身体への負担が最も少なく、費用も抑えられるといえます。
ただし、採卵できる卵子はひとつに限られるため、受精が成立しなかったり、胚の発育が十分でなかった場合には、胚移植が中止となる可能性があります。
自然な方法を希望したい場合や、AMHの値が極めて低い場合などに検討される方法です。
ショート法
ショート法は、GnRHアゴニスト点鼻薬とFSH/hMG注射を用いて卵巣を刺激する方法です。月経開始日から点鼻薬を使用し、月経3日目からFSH/hMG注射を開始して、採卵日まで毎日実施する必要があります。
ロング法と比べて期間が短く、前周期からの準備も不要になるのがメリットです。40代前後の年齢の方でも適用可能な方法とされています。
一方で、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)のリスクや卵子が十分に育たない可能性、排卵日のコントロールが難しいといったデメリットが考えられます。
月経周期が正常な方、年齢が高めの方、FSHの値が高めの方などが対象となります。
ロング法
ロング法は、ショート法よりも長い期間で卵巣を一時的に抑制しながら、より多くの卵胞を均一に育てる方法です。前周期の黄体期(前周期の月経21日目頃)からGnRHアゴニスト点鼻薬の使用を開始し、月経3日目からFSH/hMG注射を開始して、採卵日まで実施します。
この方法では、より多くの卵子の採卵が期待できます。排卵のタイミングをコントロールしやすく、治療の計画も立てやすいのがメリットです。
一方で、治療期間が長くなることや、薬剤の使用量が増えるため、身体への負担や費用が増加する可能性があります。また、OHSSのリスクがある点にも注意が必要です。
月経周期が正常な方、卵巣機能が正常な方、AMHの値が高めの方、若年層の方に適用となります。
アンタゴニスト法
アンタゴニスト法は、月経3日目からFSH/hMG注射で卵巣を刺激し、卵胞が一定の大きさに育ったタイミングでアンタゴニスト注射を併用して、排卵をコントロールする方法です。ショート法やロング法で用いる点鼻薬は原則使いません。
この方法は、治療期間が比較的短く、OHSSのリスクが抑えられる点がメリットといえます。ただし、費用がやや高い傾向にあること、排卵抑制の効果に個人差があり、排卵のタイミングにズレが生じる可能性があることに注意が必要です。
月経周期が正常な方、卵巣機能が低い方、AMHの値が低めの方が適用となります。
体外受精の基本的な流れ
体外受精は「前準備(事前検査や排卵誘発等)」→「採卵」→「媒精」→「胚移植」→「ホルモン補充」→「妊娠判定」というのが基本的な流れです。
最初の事前検査から胚移植に至るまでが1〜2ヶ月程度、胚移植から妊娠判定までが2週間とみると、長く見積もっても体外受精の治療には3ヶ月ほどかかるとみておくといいかもしれません。ただしこの期間はあくまで目安であり、治療方法や患者さまによって変わります。
ここでは体外受精の段階ごとにそれぞれ説明します。
Step1.体外受精の説明を受ける
まずは体外受精について、担当医より排卵誘発方法や胚移植の方法、スケジュールなどを詳しく説明します。
ご夫婦でご来院いただき、治療計画についてご納得いただいたうえで治療を開始いたします。
Step2.卵巣を刺激する
より多く質の高い卵子を採取するため、排卵誘発剤で卵巣を刺激します。排卵誘発剤は、良質な卵子をより多く採卵して妊娠成功率を上げるために使用されるものです。
排卵誘発剤の使用は、卵巣過剰刺激症候群を発症するなどのリスクがともないます。副作用や合併症のリスクの説明を受けたうえで、医師と相談しながら決めましょう。
排卵誘発剤を使わない「自然周期法」もありますが、採卵できる卵子の数が少なくなります。卵巣刺激方法は、月経中のホルモン採血やAMHの測定結果をもとに、患者さまの年齢や状況を考慮しながら最適な方法が選択されます。
Step3.卵子を取り出す(採卵)
排卵日になったら、卵子を取り出します。細い針を膣から卵胞に刺し、吸引して卵子を採取します。同じタイミングでご主人さまも来院して精子を採取し、質の高い精子を選んでいきます。
採卵の痛みには個人差がありますが、麻酔を使用すれば痛みを感じることはありません。採卵は10〜15分ほどで終わりますが、麻酔を使用する場合は回復室で休む時間が必要です。いずれにしても、日帰りでおこなうことができます。
Step4.精子と卵子を受精させる(媒精)
取り出した精子と卵子を受精させることを媒精といいます。専用の容器に入れ、1個の卵子に振りかけるように約10万個の精子を媒精させます。これが最も一般的な体外受精の方法です。
ほかにも「顕微授精」という方法もあります。
顕微授精は、針のような細い管を使用し、精子を卵子に直接注入する方法です。受精卵は数日かけて培養され、分割をはじめると「胚」に変わります。
Step5.子宮の中に受精卵を戻す(胚移植)
「胚」になった受精卵を子宮の中に戻すことを「胚移植」といいます。
質のよい胚を選んでカテーテルで子宮内に戻します。胚移植の方法は主に「初期胚移植」と「胚盤胞移植」の2種類があります。
初期胚移植は、培養して2〜3日後の分割胚を移植する方法です。胚盤胞移植は、5〜6日培養して、着床率の高い胚を移植する方法です。
Step6.ホルモンを補充する
妊娠率を上げるために、ホルモン補充をおこないます。女性ホルモンを補うためのもので、子宮内膜を厚くし着床率を高めてくれます。
黄体ホルモンの補充は、主に内服薬・注射・膣剤の3種類あります。
Step7.妊娠判定をおこなう
胚移植の10日目前後に、妊娠判定をおこないます。
妊娠判定では主に血液検査をおこないます。血中にあるhCGホルモンの分泌があるかどうかで妊娠が判断されます。
【方法別】体外受精のスケジュール例
クロミッドHMG法
クロミッドHMG法は、クロミッドという内服薬とFSH/HMG製剤の注射を併用した卵巣刺激法です。
クロミッドは低刺激の経口排卵誘発剤で、卵巣を刺激するとともに、自然排卵を抑制する働きがあります。
FSH/HMG製剤は、卵巣刺激ホルモン注射剤です。注射のタイミングや注射量を変えることで、中刺激〜高刺激に調整ができます。
クロミッドHMG法のスケジュール
クロミッドHMG法の基本スケジュールは以下のとおりです。
月経3日目
クロミッドHMG法は、月経3日目からクロミッドの内服を開始します。1日1錠毎日内服する必要があります。
月経5日目
月経5日目には、FSH/HMG注射も開始します。
注射の回数は卵胞の育ち方によって変わり、超音波検査で卵胞のサイズを測る検査が必要です。
採卵日35時間前
採卵日の35時間前には、夜間にhCGホルモンの注射をおこないます。
hCG注射は、卵子を成熟させるための注射です。また、希望採卵日の調整のためにGnRHアンタゴニスト製剤(セトロタイド)を最後の方に使用することがあります。
採卵日前日
採卵日前日は24時以降の飲食は禁止です。
採卵当日
事前準備のあと採卵します。採卵後は30分~1時間程度回復室で過ごす時間が必要なため、時間に余裕をもって来院してください。その後の診察にて胚移植の日程が決まります。
採卵後2〜5日目
培養した胚を移植します。妊娠判定日は、移植から10日目前後です。妊娠判定当日は血液検査と診察が必要となります。
PPOS法
PPOS法は、FSH/HMG製剤の注射と黄体ホルモン剤の内服薬を併用した高刺激な卵巣刺激法です。
アンタゴニスト法と呼ばれる同じ高刺激法と比べると、PPOS法は使用する薬が少なく、内服薬が安価であるといわれています。
FSH/HMG製剤で卵巣を刺激し、排卵を抑えるために黄体ホルモン剤を使用します。
使用する黄体ホルモン剤はクリニックによって異なりますが、当院ではデュファストンという製剤を使用しています。
黄体ホルモンは、妊娠しやすい身体作りの役割を果たす他、排卵抑制の目的で使用されることがあります。PPOS法は、排卵をコントロールしながら一度に多くの採卵が可能であるため、来院回数が少なくて済むのがメリットです。
自宅でできる自己注射を用いることで、さらに来院回数を少なくできます。
万が一、卵巣刺激症候群(OHSS)のリスクがある場合でも、hCGを用いないでアゴニスト点鼻薬を使うことも可能です。
デメリットは新鮮胚移植がおこなえないことで、凍結胚移植を考えている方に向いています。
PPOS法のスケジュール
PPOS法の基本スケジュールは以下のとおりです。
月経1〜3日目
月経2〜3日目からFSH/HMG注射を打ち、同時に黄体ホルモン剤の内服薬も兼用します。
月経8日〜11日目
卵胞のサイズや血液中のホルモン値を検査し、卵胞の育ち具合によって使用する薬の量を調整していきます。
採卵日35時間前
採卵する約35時間前に、hCG注射をおこない、卵子を成熟させます。
OHSSのリスクがある方は、hCG注射の代わりにアゴニスト点鼻薬が使用できます。
採卵日前日
24時以降の飲食は禁止です。
採卵当日
採卵します。採卵後は30分~1時間程度は回復室で安静にします。
採卵後2〜5日目
新鮮胚移植はできないため、採卵後2~5日目で胚を凍結します。凍結した胚は、次の生理周期でホルモン補充をおこない、移植します。
採卵当日に気を付けること・注意点
痛みに配慮するためにも、基本的に採卵は麻酔下でおこなわれます。
そのため採卵の前日は、24時から水以外の飲食はできません。また採卵当日にも以下のような注意点があります。
余裕をもってスケジュールを立てる
採卵自体は10〜15分程度で完了し、日帰りが可能な処置になります。忙しい方は採卵日に他の予定を入れることも実質可能です。
しかし採卵当日は、実際の処置の前に着替えをしたり、麻酔のための点滴を準備したりします。
また処置後は麻酔から回復するために、30分~1時間程度安静にする時間が必要です。
安静にしたあとは、医師から採卵した結果の報告や今後のスケジュール、採卵後の注意事項の説明があります。
そのため採卵当日は、朝に来院して午後もしくは夕方に帰宅といったスケジュール感になります。採卵数によっては時間が長くなることも考えられるでしょう。
採卵日は無理に予定を入れず、余裕のあるスケジュールを組むことをおすすめします。
メイクとネイルは落とす
採卵日は、マニキュアやジェルネイルなどを落としましょう。
「採卵なのにどうしてネイルが関係あるの?」と疑問を抱く方が多いですが、これにはきちんと理由があります。
採卵をおこなう際にはほとんどの場合、麻酔を使います。
この採卵の術中には手の指の先に血液中の酸素濃度を測る機械をつけますが、ネイルをされている場合、測定ができなくなってしまうためです。
マニキュアであれば前日に自分で簡単に落とすことができますが、ジェルネイルはサロンに行かないと落とせません。採卵日付近にジェルネイルをおこなうのは避け、採卵の日までにはオフしておきましょう。
また、採卵当日の顔色を確認するためメイクも基本的にはNGとされています。なかにはメイクが可能なクリニックもありますので、担当の医師に確認しておきましょう。
車や自転車を自分で運転しない
採卵日に麻酔をおこなう場合、自分で車や自転車を運転して来院しないようにしましょう。術後30分~1時間は安静にしてから帰宅しますが、それでも運転は危険です。
公共交通機関を利用するか、夫婦で来院するとよいでしょう。
帰宅後はゆっくり体を休める
採卵は日帰り可能で比較的痛みが少ないですが、身体には少なからず負担がかかっています。採卵から帰宅後に予定を入れたり、仕事をしたりして無理をするのは禁物です。
医師から説明のあった採卵後の過ごし方や注意事項を守って、しばらくは安静にすることが推奨されます。採卵当日はなるべく丸一日予定を入れず、しっかり休むことに努めましょう。
通院しやすい不妊治療専門の六本木レディースクリニック
不妊治療は時間がかかって大変なイメージが多く、不安に思う方も多いのではないでしょうか。しかし、大まかなスケジュールや期間を把握することでイメージしやすく、治療前の不安が取り除かれます。
不妊治療は、時間を必要とする治療法です。信頼のおける、実績のあるクリニックを選び、医師と納得がいくまで相談し、治療計画を立てることが大切です。
六本木レディースクリニックは、不妊治療を専門とした実績のあるクリニックです。経験豊富なスタッフが成功までしっかりサポートします。また、夜間や休日診療もおこなっているので、忙しい方にも通院しやすくスケジュールが立てやすくなっています。不妊で悩まれている方、不妊治療を検討している方は、まずは相談してみてはいかがでしょうか。