人工授精を試みても妊娠に至らず「このまま続けるべきか」「何が原因なのか」と不安を抱く方は少なくありません。実際、人工授精の妊娠率は決して高いとはいえず、妊娠しない原因には卵管因子や受精障害などさまざまな要因が関わっているのです。
本記事では、人工授精で妊娠しない主な原因と妊娠率、推奨される実施回数、そして次のステップとなる体外受精について詳しく解説します。
目次
人工授精(AIH)とは
人工授精は、排卵日を予測したうえで、洗浄・濃縮などで選別した良好なパートナーの精子を、カテーテルで人工的に子宮へ注入して妊娠を試みる不妊治療です。注入後は自然妊娠と同じプロセスに委ねられるため、より自然に近い方法として「タイミング法」の次のステップとして位置づけられます。身体的負担や痛みが比較的少なく、費用も体外受精などに比べて抑えやすいのがメリットです。
人工授精について詳しくはこちらの記事でも解説しています。
> 「人工授精(AIH)とは」を読む
人工授精の妊娠率
人工授精の平均的な妊娠率は、1周期あたり10%程度です。回数を重ねることで累積妊娠率は上がり、4周期以上実施した場合の累計では、40歳未満で20%程度、40歳以上で10〜15%程度といわれています。
人工授精は身体への負担が少ない一方で、若年層でも妊娠率は決して高いとはいえず、約80%の不妊患者が人工授精での妊娠が難しいといわれています。
人工授精で妊娠しやすい回数
※出典:日本産婦人科学会「10.人工授精(AIH:Artificial Insemination with Husband’s semen)」
人工授精は回数を重ねると妊娠率が上昇し、妊娠できた方のうち約88%が4周期以内に妊娠するとされています。一方、6回目以降は妊娠率の伸びが頭打ちとなる傾向があり、3〜4回実施して妊娠に至らない場合は、次のステップ(体外受精)を考えるのが一般的です。
人工授精の妊娠率についてはこちらの記事でも解説しています。
> 「人工授精の妊娠率はどのくらい?」を読む
人工授精で妊娠しない原因
妊娠に至るには、排卵→ピックアップ→受精→胚育成→着床などのプロセスがあり、どこかでつまずくと妊娠は成立しません。
前述のとおり、人工授精の妊娠率は10%程度と高くなく、卵管因子や受精障害、胚の分割障害などの不妊原因がある場合は、妊娠が難しくなります。
卵子がピックアップできていない
卵巣から放出された卵子は、卵管の先端にある卵管采にピックアップされ、卵管内へ入り、精子が来るのを待ちます。しかし、卵管采や周囲の癒着・炎症・手術既往・子宮内膜症・性感染症の既往などがあると、卵子を取り込めず卵管内にたどり着かないことがあるのです。これをピックアップ障害と呼び、人工授精で妊娠しない原因になります。
卵子と精子が受精に至らない
排卵後に卵子が正常にピックアップされても、卵管内で卵子と精子が受精できなければ妊娠には至りません。受精できない要因としては、卵子の質の低下や精子の運動率が低いといった男性不妊が考えられます。
卵子の質の低下
女性が年齢を重ねるとともに卵子の質が低下し、受精率も低下するといわれています。卵子の老化により、卵子の殻の部分が厚かったり、硬かったりすると、精子が通過できずに受精が難しくなります。
特に35歳を境に妊娠率が低下することが統計的にわかっているため、原因不明の不妊も年齢が関係している場合があるでしょう。
重度の男性不妊
乏精子症・精子無力症・無精子症など、精子数や運動率が著しく低い・奇形率が高いといった造精機能障害がある場合、卵子との受精率が低下します。人工授精は軽度の男性不妊や射精障害などに有効ですが、重度の男性不妊の場合は受精が難しく、妊娠できない可能性があります。
受精卵(胚)が育っていない
卵管内で受精ができても、受精卵(胚)が分割しながら子宮まで移動し、最終的に着床できなければ妊娠は成立しません。受精卵が育たないことを分割障害と呼び、成長が止まってしまう場合もあります。
さらに、受精卵がしっかり育っても着床ができない、着床障害も考えられます。妊娠に至るプロセスのなかで、どの要因が関与しているかは可視化が難しいですが、治療を繰り返して妊娠に至らない場合は、次のステップを検討するのがよいでしょう。
人工授精は自然妊娠できることが前提
人工授精は「人工」と名前がついていますが、実際に医療が介在するのは、精子を子宮に届ける部分のみです。膣から子宮へ精子を注入したあとは、卵子と精子が卵管で出会い、受精・胚発育・着床へ進むという自然妊娠と同じプロセスをたどります。そのため、そもそも自然妊娠が可能な状態であることが前提条件となります。
人工授精が適応となるケースは以下のとおりです。
- 射精障害:逆行性射精や勃起不全などで膣内に精子を射出できない場合
- 性交障害:性交自体が困難な場合(膣の痛みなども含む)
- 軽度の男性不妊:精子数や運動率がやや低い場合
- 頸管因子:頸管粘液が少ない・精子が子宮内に進みにくい場合
人工授精で妊娠しない場合の選択肢
人工授精で妊娠に至らなかった場合は、より高い妊娠率が期待できる生殖補助医療(ART)を検討します。次のステップとして、体外受精や顕微授精があります。
体外受精(IVF)
体外受精は、卵子を身体の外へ取り出し、精子をふりかけて受精させ、得られた受精卵(胚)を子宮へ移植して着床を試みる治療です。高度な技術を必要とする生殖補助医療のひとつで、人工授精で妊娠に至らなかった方や年齢が高い方に適応されます。1周期あたりの妊娠率はおよそ40%とされ、統計的には3〜4回目までに妊娠に至るケースが多いとされています。
体外受精(IVF)の詳細はこちらの記事でも解説しています。
> 「体外受精(IVF)とは 治療の流れや妊娠率をわかりやすく解説」を読む
顕微授精(ICSI)
顕微授精は、顕微鏡下でひとつの精子を直接卵子に注入して受精させる方法です。重度の男性不妊(精子数が非常に少ない、運動率が著しく低いなど)の場合でも受精が可能になるのが最大のメリットです。
通常の体外受精で受精が成立しないケースや、精子所見に課題がある場合に選択されます。
顕微授精(ICSI)の詳細はこちらの記事でも解説しています。
> 「顕微授精(ICSI)」を読む
生殖補助医療(ART)で改善が期待できる不妊の原因
体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)といった生殖補助医療(ART)は、人工授精で妊娠しない原因(ピックアップ障害・卵管因子・受精障害・分割障害)を体外でコントロールできるため、より高い妊娠率が期待できます。卵管を介さずに受精・発育を確認できるため、多くの不妊原因をカバーでき、効率的に治療がおこなえるのです。さらに顕微授精であれば、ひとつの精子を直接卵子に注入できるため、重度の男性不妊でも受精率を大きく改善できます。
体外受精が対象となる方は、以下のようなケースです。
- 卵管・子宮因子:卵管の癒着や閉塞、子宮筋腫など
- 免疫性不妊:免疫異常による精子の運動の妨げ
- 重度の男性不妊:精子の数や運動率が著しく低い
- 原因不明の不妊:年齢や卵子の質の低下など
一般的には、人工授精を3〜4回試みても妊娠に至らない場合や、身体の状態や女性の年齢が高い場合に、生殖補助医療へのステップアップが推奨されます。
人工授精で妊娠しない場合は体外受精の検討も
人工授精は身体への負担が少なく始めやすいですが、妊娠率はやや低い方法でもあります。そのため、繰り返しの治療で妊娠に至らない場合は、体外受精の検討が推奨されます。
六本木レディースクリニックでは、生殖補助医療において33〜35歳の女性の妊娠率で55.4%(2023年実績)という高い結果を残しています。経験豊富な医師が一人ひとりの年齢や身体の状態に合わせた最適な治療プランをご提案しています。「人工授精を続けるべきか、次のステップに進むべきか迷っている」という方は、ぜひ一度カウンセリングでご相談ください。


