不妊治療とは、一定期間の妊活を続けても自然な妊娠が難しい場合に、医学的なサポートで妊娠の可能性を高める治療のことです。タイミング法や人工授精などの一般不妊治療から、体外受精や顕微授精といった高度生殖補助医療まで、段階に応じた治療が選択されます。不妊治療は、自力でおこなう妊活よりも高い妊娠率が期待できますが、心身の負担もともなうため、医療的な補助だけでなく、職場や周りのサポートや理解も重要な要素となります。
目次
不妊治療をめぐる状況
不妊治療を受ける方は増えてきていますが、それにともない仕事との両立に悩む方も増加傾向にあるといいます。厚生労働省によると、不妊治療をした方のうち約26%が両立が難しく、不妊治療を断念したり、離職あるいは勤務形態を変更したりしているのが現状です。
不妊治療との両立が難しい背景には、通院による日程調整の難しさや企業内での不妊治療の認識や支援制度の導入・利用が進んでいないことが考えられます。実際に令和5年の厚生労働省の調査によると、約6割の企業が不妊治療をおこなう従業員を把握しておらず、約7割が支援制度を実施していないとされています。
どれくらいの人が治療を受けているか
国立社会保障・人口問題研究所の「年社会保障・人口問題基本調査」によると、2021年時点で不妊治療を受けた方の割合は以下のようになりました。
- 不妊を心配したことがある:39.2%
- 不妊治療や検査を受けたことがある:22.7%
不妊治療・検査の経験がある夫婦は、全体の22.7%を占めます。これは約4.4組のカップルに1組の割合にのぼり、年々増加傾向にあります。
このように不妊治療は特別な問題ではなく、仕事との両立は、身近になりつつある社会課題であるといえるでしょう。
治療と仕事は両立できるもの?
不妊治療の経験者や今後予定している方のなかには、仕事と両立しながらおこなっている方もいます。令和5年の厚生労働省の調査では、55.3%の方が「両立している(していた)」と回答しました。
一方で「両立できなかった(できない)」方の割合は約26%でした。およそ4人に1人以上が仕事との両立が困難だったと回答していることになります。このうち、約11%の方が両立が難しく仕事を辞めています。
参考:厚生労働省「不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック」
不妊治療と仕事の両立が難しいといわれる原因
具体的にどのような原因で、不妊治療と仕事の両立が困難となるのでしょうか。
通院と仕事の調整が難しい
不妊治療では、多くのケースで月経周期や卵子の状態・成長に合わせて通院することになります。
特に体外受精や顕微授精の場合は、採卵のために周期に合わせた卵巣・卵胞の確認のための検査があり、頻繁に通院が必要になります。
卵子の育ち具合によっては、予定していた採卵日をのちに微調整したり、急にスケジュールを前後したりするケースもあります。また待ち時間を含めると診療時間が長くなり、多くの時間を要する場合もあるのです。
このように、待ち時間や通院時間、急なスケジュール変更などがあり、仕事との調整が難しいと感じる方が多いといえます。
精神的な負荷が大きい
不妊治療は治療期間が長期に及ぶことが多く、度重なる通院や治療でストレスを抱えてしまいがちです。生活や仕事との両立がままならず、周囲に迷惑をかけてしまう、友人や近しい人の妊娠出産を喜べなくなるなど、不妊治療による精神的な負荷が大きいことで、治療を断念する方も少なくないといえます。
不妊治療がつらいときの対処法についてはこちらの記事で解説しています。
> 「不妊治療がつらい、そんな時は?悩みの原因と対処法を解説」を読む
体調や体力の負担が大きい
不妊治療では排卵誘発剤やホルモン補充などの投与で、ときには腹痛・頭痛・めまいなどの体調不良を感じることがあります。複数回にわたる採血や注射、卵巣の腫れ、採卵時の出血なども考えられ、身体に負担もかかります。
そのような副作用が出れば仕事に支障がでることも考えられ、両立が難しいと感じる方も少なくないでしょう。
病院と会社・自宅間の移動が負担
働きながらの不妊治療では、仕事前や仕事後に通院することもあるでしょう。その際に病院・会社・自宅が離れていたら、移動時間だけで時間を要します。
病院・会社・自宅の移動だけで時間と体力を使ってしまい、両立が難しいと感じる方も多いと考えられます。
職場から理解やサポートが得られない
仕事をしながらの不妊治療では、通院や治療のための仕事の日程調整が必須となります。また治療による体調不良もあるでしょう。
しかし不妊治療への理解がなく、急なお休みや体調不良による早退などに、理解やサポートが得られない場合もあるといいます。実際、不妊治療の支援制度を実施している企業は、現在全体の4分の1程度です。不妊治療を受けている方は休みづらい、周りにカミングアウトしづらいなどの悩みを抱えているようです。
不妊治療に対する企業の課題
企業は十分な配慮をおこなわないと、両立ができずに離職する人材が出てしまう可能性があります。企業側にはどのような課題があるのか具体的に見ていきましょう。
プライバシーを配慮する難しさ
不妊治療はプライベートな領域でもあるため、なかなかオープンに聞きづらい難しさもあります。
厚生労働省の調査によると、不妊治療を受けていることを職場に伝えていない人は約半数にのぼります。その多くは「伝えなくても仕事に支障はない」と考えている一方で、背景には「周囲に気を遣われたくない」「治療がうまくいかなかったときに職場にいづらい」といった心理的な懸念もあるようです。
企業としても、配慮したい気持ちはあっても対応に苦慮しているのが実情です。こうしたプライバシー面の難しさが、職場での十分な支援体制づくりを困難にする要因のひとつとなっています。
従業員の治療状況の把握が不十分
冒頭で触れたように、約6割の企業が従業員の治療状況を把握できていない実態があります。さらに約7割の企業には、不妊治療を支援するための制度が設けられていません。
このように、職場からの理解やサポートが不十分な状況では、従業員は「会社に相談しても解決できない」と感じやすく、離職やキャリア中断につながりかねません。優秀な人材に長く働いてもらうためにも、企業側は実態の把握や支援制度の整備を検討する必要があるでしょう。
不妊治療と仕事を両立させるには?
どうすれば働きながら不妊治療を両立できるのでしょうか。パートナーや家族の協力はもちろん、職場での理解やサポートが必要不可欠といえます。不妊治療と仕事を両立させるための対処法をご紹介します。
会社や職場の制度を調べてみる
まずは自分の職場に支援制度がないか確認してみましょう。支援制度を実施している会社はまだたしかに少ないですが、実は使用者が少ないことで制度自体が周知されていないケースもあるといいます。
就業規則を確認してみたり、人事労務に確認してみるのもよい方法です。時間単位や半日単位の休暇制度やフレックスタイム、テレワークなど、利用できるようになればかなり負担が軽減されます。
支援制度がなかったとしても、上司に相談することで一時的な業務分担の変更や出張の制限など、個別に配慮してもらえることも考えられます。
周囲に知られたくない、という方は事前に共有する範囲(部署や上司など)を人事労務の担当者にひとこと伝えておくとよいでしょう。
不妊治療連絡カードを活用する
不妊治療連絡カードとは、不妊治療中であることを伝えたり、支援制度を利用したりする際のコミュニケーションツールとして、厚生労働省が作成した連絡カードのことです。
この連絡カードに不妊クリニックの担当医から、治療の実施予定日、配慮が必要となる点などを記入してもらいます。そのカードを会社に提出することで、会社と労働者のコミュニケーションが円滑になり、職場での配慮やサポートが受けられやすくなるツールとして役立ちます。
仕事に影響が少ないクリニックに相談する
仕事との両立には、通院しやすいクリニック選びが重要です。
病院によっては土日でも受診が可能なところもあれば、仕事帰りに立ち寄れる夜間診療を受け付ける病院もあります。できるだけ職場から近い場所を選べば、仕事の合間を見つけて通院したり、仕事を早めに切り上げて受診することもできるでしょう。
また、状況や事情によって適切な治療法を提案できる医師であることが望ましいといえます。治療法によっては通院回数が少なくて済む方法もあるからです。
六本木レディースクリニックは、六本木駅から徒歩約2分と通いやすく、平日夜間診療、休日診療にも対応が可能です。働きながら不妊治療を無理なく続けられるように、患者さまの負担を少しでも軽減できるように努めています。
働き方を変えることも検討する
フルタイムで仕事を続けながら不妊治療を受けるのが困難だと感じたら、働き方を変えることもひとつの対処法です。時短勤務や一時的にパート勤務に変更してもらう、業務分担の変更をお願いしてみるなどで、負担を軽減できることもあります。
テレワーク、フレックスタイム制の働き方が可能であれば、かなり通院や移動の時間の負担が減るといえます。
治療前に知っておくべき制度や治療内容
不妊治療と仕事の両立で大きな負担となるのが、通院の回数です。近年は、不妊治療をサポートする企業や公的制度も増えつつあります。想定される治療ごとの通院回数や、利用できる支援制度を事前に把握しておきましょう。
現在治療を受けている方はもちろん、これから不妊治療を検討している方も、参考にしてみてください。
治療ごとの通院回数の目安
不妊治療の通院回数は、治療の種類によって異なります。一般不妊治療(タイミング法と人工授精)は、月経周期に合わせて検査や治療をおこないます。生殖補助医療をおこなう場合は、女性の頻繁な通院が必要です。月の通院回数は、年齢や個人の状況に応じて変動することもあります。
以下でそれぞれの通院回数の目安を解説します。
タイミング指導(タイミング法)
排卵に合わせて医師が夫婦生活のタイミングを指導する治療です。
超音波検査で卵巣の状態を確認しながら、排卵日を正確に予測します。通院回数の目安は以下のとおりです。
| タイミング指導の通院回数目安 | |
|---|---|
| 【女性】 診療時間1回1〜2時間程度:2〜4回 |
【男性】 0〜1回(1~2時間程度) |
人工授精(AIH)
事前に精液を採取し、洗浄・濃縮した精子と子宮に直接注入する治療です。軽度の男性不妊や性交障害などのケースに適応となります。比較的身体に負担が少なく、自然妊娠に近い方法です。
| 人工授精の通院回数目安 | |
|---|---|
| 【女性】 診療時間1回1〜2時間程度:2〜5回 |
【男性】 0〜1回(1時間程度) |
生殖補助医療(ART)
生殖補助医療は、体外受精や顕微授精のことで、頻繁な通院が必要になります。卵巣から卵子を取り出す採卵手術や、受精卵(胚)を子宮に戻す胚移植などの処置は、半日から丸1日かかる場合もあります。
排卵誘発剤の連日の注射があることが多いですが、自己注射を選択することで通院回数を大幅に減らせます。生殖補助医療の場合は、治療の内容や状況によって通院回数が変わりますが、以下が目安の回数となります。
| 生殖補助医療の通院回数目安 | |
|---|---|
| 【女性】 診療時間1回1〜3時間程度:4〜8回診療時間1回半日〜1日程度:1〜2回 |
【男性】 0〜1回(1時間程度) |
不妊治療と職場の休暇・休職制度
厚生労働省の調査によると、不妊治療をおこなう労働者の多くは「年次有給休暇(31.5%)」や「短時間勤務・テレワークなど柔軟な働き方を可能にする制度(18.7%)」、さらには「通院・休憩時間を認める制度(16.3%)」を利用しているという結果になっています。しかし一方で、全体の約40%はこれらの制度を利用していないという現状があります。
無理なく不妊治療を続けるために、職場で活用できる基本的な制度を今一度確認してみましょう。
参考:厚生労働省「不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック」
有給休暇の活用
有給休暇は法律で保障されている最も基本的な制度で、取得しても賃金が減額されることはありません。不妊治療では、採卵や移植の前後などスケジュールが急に決まることも多くあります。あらかじめ職場と相談し、有給を柔軟に取得できるよう調整しておくとスムーズでしょう。
ただし、有給休暇の日数は限りがあるため、治療が長期化する場合は有給休暇だけではカバーできないケースもあります。
病気休暇の利用
病気休暇は、傷病の療養を目的として有給休暇とは別枠で取得できる制度です。企業によっては名称や日数に違いがありますが、不妊治療にかかる検査や処置にも適用可能となります。
病気休暇を利用することで、有給を使い切ることなく治療を続けられる可能性があります。
特別休暇の制度
近年では、一部の企業が不妊治療に係る特別休暇制度を導入しています。この制度を利用すれば、通常の休暇とは別に治療専用の休暇を確保でき、プライバシーを守りながら治療に取り組むことが可能です。
休暇制度の義務と「くるみんプラス認定」
子育て支援に積極的に取り組む企業は、「くるみん認定制度」によって厚生労働省から「子育てサポート企業」として認められます。そして令和4年4月からは、不妊治療と仕事の両立支援に取り組む企業も「くるみんプラス」として認定され、マークを広告やWebサイトに使用できるようになりました。
企業の社会的評価を高めるだけでなく、採用や人材定着にもプラスに働きます。従業員側は、勤めている企業に不妊治療の支援制度があるかどうか確認することが大切です。また求職者にとっても、今後企業を選ぶうえでのひとつの指標になるでしょう。
不妊治療と仕事の両立を後押しする企業の実例
不妊治療の支援制度の導入は、大企業を中心に増えてきています。ここでは、日本の代表的な企業の取り組み事例を3つ紹介します。
株式会社メルカリ
株式会社メルカリでは、2016年から妊活支援をおこなっており、2021年6月には「卵子凍結支援制度」を試験的に導入しました。この制度は、社員がキャリアを優先しながらも将来の妊娠・出産を諦めずに済むよう、不安を軽減することを目的とした福利厚生です。海外の大手IT企業でも導入が進むなか、日本企業として先駆けて取り入れた取り組みといえます。1子あたり200万円を上限とした補助もおこなっています。
ヤフー株式会社
ヤフー株式会社では、従業員が心身ともに健やかな状態で働けるよう、健康支援に関する独自の制度を幅広く導入しています。不妊治療と仕事の両立が難しい場合でも、一時的に休職しながら長期的に働き続けられる「不妊治療休職制度」を整備しているのが特徴です。休職期間中は無給ですが、最長で1年まで休職が可能です。また、妊活に関する相談専用窓口も設置し、不妊治療に取り組む社員をサポートしています。
大東建託株式会社
大東建託株式会社では、以下のような制度を整えています。
- 不妊治療休暇(年5日・時間単位で取得可能)
- 最長3年間の休業制度
- 不妊治療補助金(年間2万円/最長5年間)
- 家族休暇(理由を明かさず利用可能)
これらの制度を従業員に周知する配慮がなされ、利用のしやすさを高める工夫もおこなわれています。建設業で男性が多い職場でありながら、実際に制度を利用した従業員は10名を超えたと報告されています。
仕事と治療の両立でお悩みなら六本木レディースクリニックへ
不妊治療と仕事の両立に悩む方は増加傾向にあります。不妊治療の通院や待ち時間の多さ、精神的・身体的負担など、周囲や職場の理解やサポートなしで仕事との両立は難しいでしょう。
六本木レディースクリニックでは、患者さまが不妊治療を無理なく続けられるように、平日の夜間診療と土日祝の休日診療をおこなっています。お身体の状態だけでなく、一人ひとりの環境や事情を配慮した、オーダーメイド治療をご提案します。仕事と治療の両立でお悩みの方は、ぜひ当院へご相談ください。


