
「卵子凍結をするべきか迷っている」という女性は少なくないのではないでしょうか。将来の選択肢を広げる手段として注目されている一方で、いくつかのデメリットやリスクも存在します。後悔のない選択をするためには、卵子凍結について正しく理解することが大切です。
本記事では、卵子凍結の主なメリット・デメリットやリスク、子どもへの影響についてわかりやすく解説します。
目次
卵子凍結が今注目される理由
近年、女性の社会進出や晩婚化が進むなか、さまざまな事情により妊娠適齢期に子どもを持つことが難しいと感じる女性が増えています。とはいえ、妊娠や出産には年齢的な限界があります。そこで注目されているのが卵子凍結です。
卵子凍結は、若いうちに卵巣から卵子を採取し、将来の妊娠可能性を高める凍結保存する方法です。
一般的には、女性が35歳以上になると妊娠率は低下し、流産のリスクは高まるとされています。これらは主に、卵子の老化による染色体異常であると考えられています。
以下のグラフは、年齢別の生殖補助医療による妊娠率を示したものです。年齢が高くなるにつれ、妊娠率も下がっているのがわかります。

※1 出典:日本産科婦人科学会、2021年のARTデータブックのデータを使用。妊娠周期数/移植周期数より算出
女性の卵子のもととなる「卵母細胞」は、胎児のときに体内で形成され、その後新しく作られることはありません。つまり、女性が年齢を重ねるのと同様に、卵子も同じく年数を重ねているのです。
しかし、卵子凍結をおこなえば、凍結時点の卵子の質を維持できるとされています。質のよい卵子を保存しておくことで、将来の妊娠率を少しでも高められる可能性があります。
卵子凍結については、こちらのページでも詳しく解説しています。
> 「卵子凍結:方法や保存期間・費用について」を読む
卵子凍結のデメリット
「卵子凍結をしようか迷っている」という方は、メリット・デメリットを理解したうえで、卵子凍結を検討するのがベストです。
ここではまず、知っておきたい卵子凍結のデメリットについて解説します。
費用が高額になる
卵子凍結は、保険適用外の自由診療です。そのため、採卵から凍結保存までに数十万円、さらに毎年の保管料もかかります。
クリニックによって費用は異なりますが、一例として当院の卵子凍結の費用を以下でご紹介します。
| 初期費用 (診察・必要採血・ピル処方) |
15,330円〜27,000円 |
| 治療費用 (治療開始〜採卵までの診察代・薬代・採卵代をすべて含む) |
高刺激用パック 275,000円※AMH1.5以上で高刺激が適応の方 |
| 低刺激用パック 220,000円※AMH1.5未満で低〜中刺激が適応の方 | |
| 凍結費用※卵子1個につき | 11,000円 (5個凍結の場合:11,000×5=55,000円) |
ただし、東京都など一部自治体では、一定の条件を満たすことで助成金が受けられる制度もあります。制度を活用すれば、費用負担を抑えることができるため、自治体の支援情報を事前に確認してみましょう。
卵子凍結の費用については、こちらの記事でも解説しています。
> 「卵子凍結の費用はいくらかかる?助成金や保険適用についても解説」を読む
治療により心身に負担がかかる
卵子凍結のためには、まず排卵誘発剤を用いて卵胞を育てる必要があります。数日間にわたり注射や内服薬を続ける必要があり、卵巣が腫れたり、痛みを感じたりすることがあります。
採卵前後には複数回の通院も必要で、体調管理やスケジュール調整に追われることも考えられます。特に、仕事やプライベートとの両立が難しくなることも。治療にかかる心身の負担については、ご自身はもちろん、周りの理解や協力が必要になる場合があります。
将来必ず妊娠できる保証はない
卵子凍結をしたからといって、将来必ず妊娠・出産できるわけではありません。凍結卵子の質や数、年齢、子宮の状態などさまざまな要因が妊娠に影響するためです。
日本生殖医学会のデータによると、2017年に全国でおこなわれた約45万件の卵子凍結を含む生殖補助医療(ART)のうち、出産に至ったのは約5万3千件と、全体の約12%程度にとどまっています(日本生殖医学会より引用)。卵子凍結はあくまで将来の妊娠可能性を高める手段であり、妊娠を保証するものではないことを理解しておきましょう。
融解時に卵子にダメージがかかる
凍結された卵子は、妊娠を望むタイミングで融解(解凍)することになります。この際に卵子へダメージがかかり、質が低下する恐れがあります。
特に未受精卵(卵子のみ)の凍結は、受精卵の凍結と比べて水分膨張が生じやすく、質の低下が起こりやすいといわれています。そのため、融解後に受精・着床まで至らないケースも考えられます。
ただし、卵子をより多く保存しておくことで、このリスクを最小限に抑えられます。
卵子凍結のメリット
妊娠や出産のタイミングは人それぞれですが、年齢や健康状態によって妊娠の可能性が左右されるのは事実です。これらを補い、将来の妊娠の可能性を高められる手段として、卵子凍結には以下のようなメリットがあります。
卵子の数や質を確保して妊娠率を高められる
卵子は女性の年齢とともに、質だけでなく数も減少していきます。胎児期に作られた多くの卵子は、長い間眠った状態にあり、思春期を過ぎる頃に成熟して排卵します。作られた卵子のすべてが排卵されるのではなく、その多くは時間の経過とともに減少していきます。
卵子凍結では自然に減少する卵子をホルモン剤を使って成熟させ、より多くの卵子の採取が可能です。より若く質の高い卵子だけでなく、数を確保することで、将来の妊娠率を高められます。
疾患にかかる前に将来の妊娠に備えられる
年齢を重ねると、子宮筋腫や子宮内膜症、卵巣機能低下など、妊娠に影響を与える婦人科疾患のリスクが高まります。これらの疾患は治療によって卵巣や子宮にダメージを与える可能性があり、不妊の原因になります。
若く健康なうちに卵子凍結をしておけば、思わぬ病気や治療による妊娠力の低下にも備えられます。
今の生活や仕事に専念できる
将来の妊娠の可能性を確保しておくことで、現在はキャリアアップや自己実現、趣味の充実など、自分のライフスタイルに集中しやすくなります。また、現在パートナーがいない、結婚は考えられないといった方も同様です。
時間的・精神的な余裕を持ちながら、将来の出産という選択肢も残しておける点は、多忙な現代女性にとって大きなメリットといえるでしょう。
卵子凍結のリスクや副作用
卵子凍結は医療行為である以上、身体への負担やリスク・副作用がともなうことがあります。重篤な副作用が生じることはまれですが、排卵誘発や採卵による治療では、以下のようなリスクがあることを考慮しておきましょう。
出血・感染
卵子凍結のプロセスでは、採卵が必要になります。採卵は卵巣から卵子を取り出す処置であり、専用の器具を用いて膣内から卵巣へ針を刺して卵子を取り出します。
この際に、まれに出血や感染を引き起こす可能性があります。多くの場合は軽度で済みますが、場合によっては腹痛や発熱をともなうこともあります。適切な管理のもとでおこなえば基本的に安全ですが、リスクがゼロではないことを認識しておく必要があります。
麻酔による副作用
採卵時は痛みを抑えるために、静脈麻酔を用いることがあります。眠っている間に処置が完了するため、痛みはほとんど感じません。
ただし、まれに麻酔による副作用で吐き気、嘔吐、じんましん、喘息のような症状が生じることがあります。麻酔を受ける際は、これまでにアレルギー反応や副作用の症状がなかったか、必ず担当医に伝えるようにしましょう。
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
排卵誘発剤を使用する際に注意が必要なのが、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)です。これは卵巣が過度に刺激を受けて腫れ、腹水や胸水がたまる、急激な体重増加、吐き気、腹痛などの症状を引き起こす状態です。
まれですが、症状が悪化すると入院が必要になる場合もあります。OHSSは若年女性や多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方に起こりやすいため、医師とよく相談しながら排卵誘発剤の有無や種類の選定が必要です。
高齢出産・妊娠合併症
卵子凍結によって若い卵子を保存できたとしても、出産年齢が高くなれば、それにともなう胎児と母体へのリスクは避けられません。一般的に、35歳以上の出産は「高齢出産」とされ、妊娠が成立しても流産のリスクが高まります。
また、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病、早産などの妊娠合併症を発症する可能性も上昇します。卵子凍結で妊娠の選択肢を残すことはできますが、年齢を重ねてからの出産のリスクについても考慮する必要があります。
卵子凍結の子どもへの影響
卵子凍結自体が原因となって、胎児に問題が生じる可能性は低いとされています。国内外の学会やガイドラインにおいても、卵子凍結で妊娠・出産した場合の先天異常のリスクは、自然妊娠と比べて大きな差はないとする見解が多いようです。
凍結後の卵子は半永久的に保存され、劣化や変形もほとんどなく、その後の顕微授精で妊娠・出産の可能性を高められます。卵子凍結自体による子どもへの影響は、ほとんどないと考えてよいでしょう。
ただし、卵子凍結を考える年齢や出産年齢が比較的高くなることから、高年齢による流産や合併症などのリスクが高まる恐れがあります。流産せずに出産した場合でも、女性が40歳以上ではダウン症児を出産する確率が、若い人の約10倍になるという統計結果があります。卵子凍結自体は卵子の質を保ち、妊娠率を高めるひとつの手段となりますが、母体の年齢によるリスクは避けられないことを認識しておく必要があります。
卵子凍結から妊娠までの流れ
卵子凍結は凍結して終了ではなく、その後の不妊治療(顕微授精)があることも忘れてはなりません。
卵子凍結は、大きく「採卵」→「凍結保存」→「顕微授精」→「胚移植」のプロセスを経て、着床すれば妊娠に至ります。ここでは、妊娠までの簡潔な流れを説明します。
卵胞を育てて採卵する
より多くの卵子を採取するために、排卵誘発剤(内服薬や自己注射)で卵胞を育てます。
採卵できるサイズまで卵胞が成熟したことを確認し、採卵日を決定。採卵当日は、採卵針を膣から挿入して卵子を採取します。
採取した卵子を凍結保存する
状態のよい成熟した卵子を選別したうえで、-196℃の液体窒素の中で凍結保存します。現代の凍結技術では、凍結中に卵子が損傷することはほとんどないとされています。
ただし、融解時に卵子にダメージが生じる場合があるため、卵子はより多く凍結しておくことが推奨されます。凍結できた個数は、後日の診察や内診で説明があります。
凍結保存は1年ごとに更新されます。
妊娠を望むときに顕微授精をする
妊娠を望むタイミングで、卵子を融解します。卵子を正常に融解できる割合はおよそ80%といわれています。
パートナーの精子を顕微授精で受精させ、受精卵(胚)を作ります。胚がしっかり育ったら、胚移植に備えてホルモン剤や膣剤を使用します。
受精卵を子宮に戻す
成長した受精卵(胚)を、細いカテーテルを使って子宮内膜へ移植します。胚移植から10日前後に、尿検査または血液検査で妊娠判定をおこないます。着床していれば陽性反応があり、妊娠成立となります。
卵子凍結についてよくある質問
どのような方が卵子凍結を選択していますか?
東京都の卵子凍結に関するアンケート調査によると、卵子凍結を受けた方の約9割以上が未婚で出産経験がない、30代女性の有職者であることがわかっています。なお、最も多い年齢は36〜39歳で全体の59%を占めています。
卵子凍結にかかる期間や通院回数はどのくらいですか?
卵子凍結にかかる期間は、1〜1.5ヵ月程度です。通院回数は、5〜6回程度が平均的です。ただし個人差があり、方法によっては通院回数を少なくできることもあるため、医師と相談するとよいでしょう。
卵子凍結をした場合の出生率はどのくらいですか?
日本産婦人科学会によると、ひとつの卵子凍結をおこなった場合、出産まで至れる確率は4.5〜12%と報告されています。卵子凍結をしても、実際に使用する割合や、妊娠に至る確率は現時点ではそこまで高くないことは留意点です。
信頼できるクリニックで悔いのない選択を
卵子凍結は、多忙な現代女性にとって将来の妊娠可能性を広げるひとつの選択肢といえます。とはいえ、デメリットやリスク、金銭的な面で、簡単に決断することは難しいはずです。
卵子凍結にハードルを感じる方は、まずはAMH検査や不妊検査を受けてみるのも一案です。現在の身体の状態を把握することで、治療や卵子凍結の必要性を判断する材料になるでしょう。
六本木レディースクリニックでは、看護師による無料相談を実施しています(事前予約制)。卵子凍結ついて相談したい、不安や疑問を解消したい方は、お気軽に当院へご相談ください。

