不妊治療では、排卵を促したりホルモンを補ったりするために注射が必要になることがあります。しかし注射の頻度や副作用、使い方などに、不安や疑問を抱える方も少なくありません。この記事では、不妊治療で使われる注射の種類や自己注射の方法、注意点や副作用のリスクまでをわかりやすく解説します。
目次
不妊治療の自己注射について
不妊治療では、検査の採血の他に、治療中に何度か注射をする必要があります。特に体外受精や顕微授精では、注射の回数が多くなります。
ここではまず、不妊治療中の注射の目的や自己注射について解説します。
排卵を促すための注射
多くの不妊治療では、薬でホルモンを補い、卵胞の発育を促す「排卵誘発」をおこないます。排卵障害のある方に投与したり、体外受精の採卵時に、より多くの卵子を採取するために実施されるものです。
排卵誘発の方法は、クロミッドなどの内服薬による「低刺激」と、注射によって直接作用させる「中刺激」「高刺激」があります。低刺激は内服のみで身体に負担は少ないですが、その分育てられる卵胞の数は限られます。中刺激や高刺激の場合は、複数の卵胞を育てられ、より多くの卵子を採取することが可能です。
排卵誘発の方法は、患者さまの年齢や身体の状態、ご希望によって医師と相談しながら決定します。
自宅でできる自己注射の基本
排卵誘発のための注射は、病院で打つ方法と自宅で打つ「自己注射」の方法があります。自己注射の場合は、看護師からの注射の指導を受けたのち、自宅で自分で注射します。アルコール綿やシリンジなどのセットを一式受け取り、決められた時間にお腹周辺に打つことになります。
不妊治療で自己注射を取り入れる理由
自己注射は通院回数を減らし、通院によるストレスを軽減することを目的としています。仕事や家事と並行して不妊治療をされる方も多くいらっしゃいます。多忙ななか、注射のためにクリニックに何度も通うことは時間や交通費がかかるだけでなく、身体への負担にもなるでしょう。
しかし自己注射であれば、自宅または病院外で実施でき、通院のための仕事や予定の調整が不要になります。自己注射は、不妊治療を無理なく続けるために選ばれている選択肢です。
不妊治療に用いられる自己注射の種類
不妊治療の自己注射には、主にhCG注射・hMG/rFSH注射・GnRHアンタゴニスト製剤の3種類があり、排卵誘発の方法によって使い分けられます。
以下でそれぞれの自己注射の役割や特徴を解説します。
hCG注射
hCG注射は、卵胞が18mm程度に育った頃に打ち、最終的な卵子の成長を促す注射です。卵子を受精が可能な状態まで成熟させて、排卵を促進します。hCG注射をすると36〜40時間前後で排卵するため、決定した採卵日から逆算して時間どおりに打つ必要があります。看護師が打つ筋肉注射もありますが、多くの場合は、場合によっては点鼻薬を用いることもあります。
hMG/rFSH注射(ゴナドトロピン製剤)
hMG/rFSH注射は、卵胞の発育を促すための注射です。ゴナドトロピン製剤とも呼ばれ、強力な排卵誘発効果が期待できます。体外受精において、複数の卵子を採取したい場合に有効です。hMG/rFSH注射は、LHとFSHの含有量の違いなどによってさまざまな種類があり、患者さまの身体の状態によって選択されます。
ただし、高刺激によるOHSS(卵巣過剰刺激症候群)のリスクもあるため、医師による薬剤の調整が必要です。
GnRHアンタゴニスト製剤
GnRHアンタゴニスト製剤は、hMG/rFSH注射と併用して使用される注射です。hMG/rFSH注射によって卵胞が発育してもサイズにばらつきがある状態で排卵に近づくと、大きな卵胞からしか卵子を採取できません。そこで、小さな卵胞が成熟するまで排卵を抑制するためにGnRHアンタゴニスト製剤を用いることで、より多くの成熟した質の高い卵子を採取できます。また、GnRHアンタゴニスト製剤により排卵をコントロールできるため、採卵日の調整がしやすくなるというメリットもあります。
自己注射をする頻度
自己注射を打つ頻度は、卵巣刺激の強さによって変わります。
以下で中刺激法と高刺激法の自己注射の大まかな頻度を解説します。
中刺激法の場合
中刺激法では、隔日または連日で5回程度の注射が必要になります。中刺激法では、内服薬とhMG注射を併用する、クロミッド-hMG法などがあります。
中刺激のため注射や通院回数は比較的少なく、副作用のリスクも低いといえます。ただし、採卵できる卵子数は3〜7個程度に限られる可能性があります。
高刺激法の場合
高刺激法では、連日で8回程度の注射が必要になる可能性があります。体外受精でより多くの卵子を採取する場合は、多くの場合に高刺激法が選択されます。そのなかでもロング法・ショート法・アンタゴニスト法があり、その方法によって注射や通院の回数は変動します。
連日でおこなう自己注射の頻度が多いですが、より多くの卵子を育てて採取できることから、その後の妊娠率向上にもつながるでしょう。
不妊治療での自己注射スケジュール例
高刺激のなかのショート法は、連日注射をして卵胞を育てる方法です。ロング法と比較して注射を投与する期間が短いため、ショート法と呼ばれています。
ここでは一例として、ショート法の自己注射のスケジュールをご紹介します。
- 月経1日目:月経1日目から点鼻薬を開始します。1日3回おこないます。
- 月経3日目:月経3日目からは点鼻薬と並行して、hMG/rFSHの自己注射を開始します。採卵の2日前まで連日で投与します。
- 月経周期8〜11日目:月経周期の8〜11日目には、連日卵胞の大きさをチェックするために通院が必要です。
- 月経周期11日頃:卵胞が採卵できるサイズまで育ったら、採卵日を決定し、hCG注射を打ちます。
- 月経周期14日頃:hCG注射の2日後に来院し、採卵を実施します。
自己注射にともなう副作用やリスク
排卵誘発の注射は基本的に安全であり、卵巣機能が低下するような影響はありません。ただし、自己注射にともない、ごくまれに副作用が現れることがあります。主な症状としては頭痛や腹部の張り、注射部位の赤みなどで、多くの場合は軽度で一時的なものです。
まれに卵巣が強く刺激に反応し、卵巣の腫れや腹水がたまるOHSS(卵巣過剰刺激症候群)が起こることもありますが、重症化するのはごく一部で、医師の管理下で適切に予防・対処されます。現在は不妊治療の技術の進歩により、一人ひとりに合った適切な量と方法で排卵誘発をおこなえるため、過度に心配する必要はありません。
不妊治療でおこなう自己注射の流れ
自己注射には、シリンジタイプとペンタイプがあり、種類によって自己注射の流れも少し異なります。ここでは、よく使われるペンタイプの自己注射の流れを簡易的に説明します。
自己注射(ペンタイプ)をおこなう手順は、以下のとおりです。
- 【Step1】皮下注ペンの準備:まず石鹸で手を洗い、清潔な手でおこないます。クリニックからもらった皮下注ペンを用意し、キャップを外します。針を時計回りに回して取り付けます。
- 【Step2】薬剤の準備:注射針のキャップを外し、注入ボタンを回し、投与量を25に設定します。針先を上に向けて注入ボタンを押し、空気抜きを行います。その後、投与量をクリニックから指示された量に設定します。
- 【Step3】注射を打つ:アルコール綿で注射部位を消毒し、部位をしっかりつまんで90度の角度でまっすぐ針を刺します。そのままゆっくりと注入ボタンを最後まで押し込みます。投与量表示が「0」になったら終了です。
- 【Step4】後片付け:針を取り外し、専用の破棄容器に入れます。皮下注ペンは使い切るまでは冷蔵庫保管となります。
初めての自己注射の前は、看護師の説明と指導があるためご安心ください。
不妊治療で自己注射を選ぶメリット
自分で注射するのは怖いと感じる方もいるかもしれません。しかし、自己注射を取り入れることで、通院の負担が軽減されるだけでなく、仕事やプライベートとの両立がしやすくなるなどのメリットがあります。
ここでは、自己注射を選ぶ主なメリットをいくつか紹介します。
通院回数を減らせるので、仕事や日常生活と両立しやすい
自己注射を導入する最大のメリットの1つは、注射のためだけの通院が不要になることです。不妊治療では連日複数回の注射が必要になるケースが多く、毎日通院のたびに仕事や家庭の予定を調整したりする負担がかかります。自己注射なら自宅や病院外でできるため、通院回数を最小限に抑えられます。仕事や日常生活との両立がしやすくなり、精神的なストレスも軽減できるでしょう。
経口薬や点鼻薬より高い効果が期待できる
排卵誘発には経口薬や点鼻薬が使用されることもありますが、これらは作用が穏やかで、多くの卵胞を育てるには効果が十分でない場合があります。一方、注射は薬剤を直接体内に投与するため、より確実に作用を発揮しやすいのが特徴です。
特に体外受精の採卵において、卵胞をしっかりと育てたい場合や、体質的に経口薬の効果が出にくい方には注射による治療が有効とされています。来院して注射を受けるのが難しい場合でも、自己注射を選択すれば高い効果が期待でき、妊娠率の向上にもつながる可能性があります。
自分のタイミングで注射できる(予約不要)
クリニックでの注射は診療時間に合わせて来院する必要があり、仕事や予定を調整しなければなりません。注射自体の処置時間は短いですが、前後の待ち時間や会計までの時間が発生してしまいます。しかし自己注射であれば、予約不要で自分のタイミングで注射が可能です。通勤前や帰宅後、就寝前など、都合のよい時間を選べるため、無理なく治療を続けられるでしょう。
ただし、一部の薬剤には指定の時間に打つ必要がある自己注射もあります。その場合は医師の指示に従って、適切なタイミングでの注射が必要です。
通院にかかる時間や費用を節約できる
クリニックまでの移動時間や交通費も無視できません。特に遠方の場合は通院回数が多くなると、より負担が大きくなるでしょう。自己注射を選択することで、時間のロスや経済的負担の軽減につながります。
自己注射をおこなうときの注意点
自己注射は医師の管理・指導のもと安全におこなえる方法ですが、実施に際してはいくつかの注意点があります。特に、以下の注意点を押さえておきましょう。
薬は正しい温度で保管する
注射薬は品質を保つために、必ず薬剤ごとの管理方法に従って保管することが大切です。多くの場合、冷暗所(15〜25度ほどの室温で直射日光が当たらない場所)での保存が推奨されます。特に夏場は注意が必要です。外出時は保冷バックなどに入れて持ち歩きます。
管理が不十分だと薬の効果が弱まる恐れがあるため、正しい温度で保管するようにしましょう。
注射のスケジュールは正確に守る
自己注射は、医師の指示や注射の指示書に従って、スケジュールを正確に守りましょう。注射する日付や薬の種類、本数や注入量があり、これを守らなければ治療の効果が十分に得られない可能性があります。
特に途中で追加となる注射や、指定の時間に打たなければならない注射もあります。打ち忘れなどがあると、治療計画の見直しが必要になる場合もあるため、アラームを設定するなどスケジュールは厳守しましょう。
注射部位は毎回少しずつ変える
自己注射は連日にわたり、腹部に打ち続けることが多いため、同じ部位に繰り返し打つと皮膚が硬くなったり、赤みやしこりが残る原因になります。そのため、注射する部位は毎回少しずつ場所を変えて打つようにしましょう。
特に、以下のような部位は避けてください。
- へそから直径5cmの範囲
- 皮膚の硬い部位やしこりの部位
- 血管が見えている部位
- 着衣のゴムがあたる場所
違和感や痛みがある場合は無理をしない
注射時に強い痛みを感じたり、血液の逆流が見られる場合は、場所を変えて打ち直します。自己注射の際は、針を刺してから薬剤を注入する前に、一度注射器の押し子(内筒)を引いて、逆流がないか確認するとよいでしょう。
また、吐き気や頭痛などの体調不良があった場合は、無理に注射を続ける必要はありません。自己判断せず、必ず医師に相談するようにしましょう。
使用済みの注射針や器具はクリニックで処分する
自己注射で使用したシリンジや針、薬剤が入っていたアンプルやバイアルといった物品は、家庭ゴミとして処分することはできません。必ずクリニックへ持参し、適切に処分してもらう必要があります。専用の廃棄容器か、家庭内にあるペットボトルなどに入れて受診時に持参します。
不妊治療専門の六本木レディースクリニックへお気軽にご相談ください
不妊治療における自己注射は、通院の負担を減らしながら治療を続けられる有効な方法です。正しい手順や注意点を守れば、安全に取り入れることができ、妊娠の可能性を高める選択肢のひとつとなります。
とはいえ、自己注射に不安を感じる方や、自分に合った排卵誘発法がわからない方も少なくありません。六本木レディースクリニックでは、不妊治療を専門とする医師が一人ひとりのお身体の状態やライフスタイルに合わせて最適な治療法をご提案します。不妊治療の疑問点や不安な点など、お気軽にご相談ください。

