不妊治療を進めるうえで、体外受精に期待をかけている方も多いことでしょう。体外受精には採卵の必要がありますが、採卵にともなう痛みについて不安を感じている方は少なくありません。また、体外受精の痛みを乗り越え、妊娠の成功に結び付けるためには、少しでも質のよい卵子を採卵したいものです。ここでは、体外受精にともなう痛みや、質のよい卵子を採卵するために心がけることなどについて解説していきます。
目次
体外受精の採卵にともなう痛みとは
体外受精では、採卵だけでなく、採卵に至るまでの検査や処置、採卵後にも痛みを生じる場合があります。そのシチュエーション別に、どのようなときに、どのような痛みが生じる可能性があるのか、説明します。
採卵前の痛み
体外受精を決めてから、採卵に至るまでにはどのような痛みがあるでしょうか。
採卵に至るまでに、排卵誘発剤を使用する場合、注射部位の軽い痛みや発赤、硬結が起こる場合があります。また、卵巣刺激法で高刺激法をおこなった場合、卵巣が腫れて卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を発症すると、下腹部に痛みや違和感を覚えることがあります。重症化することもあるので、症状がある場合には主治医に必ず報告するようにしましょう。
また、採卵33~36時間前に使用する点鼻用スプレキュアでは、頭痛の副作用が出ることがあります。
その他、採卵までに卵胞の成長を確認するためにホルモンを測定しますが、採血にともなう痛みがあります。
採卵日当日の痛みについて説明します。
採卵にともない静脈麻酔をおこなう場合、点滴の針を刺すときに痛みがあります。針を刺す痛みを和らげるテープタイプの麻酔を事前に貼ることで痛みが軽減されます。体外受精を受けるクリニックで相談してみましょう。
採卵開始前に、まず外陰部と膣内を洗浄します。温かい生理食塩水を流して、器具で膣をひろげるため、何ともいえない違和感や軽い痛みをともなう場合があります。
採卵時には、細い針を膣から挿入し卵巣に針を刺して卵胞液とともに吸引して卵子を採卵するときに痛みがあります。特に採卵する数が多い場合には、針を刺す回数が多くなり、痛みが増すので、麻酔の使用が検討されます。また、採取した卵子が多い場合は、卵巣が腫れて、歩くと身体に響くような痛みがすることがあります。
卵子凍結は、採卵した卵子を凍結して保存するため、採卵時以外に痛みはともないません。
採卵後の痛み
採卵後にも、さまざまな痛みが生じることがあります。
採卵後の痛みとして、非常に稀ですが、採卵時に針を刺した膣壁や卵巣からの出血が止まらず、腹腔内に血液がたまって痛みが起こる可能性があります。細い針を使用することで、出血のリスクは軽減されます。
採卵にともない骨盤内に感染症を発症すると、炎症による発熱や痛みを生じる場合があります。非常に稀ですが、リスクのある方の場合、必要があれば採卵前に抗菌剤の使用を検討することがあります。
採卵に先駆けておこなった排卵誘発剤で卵巣過剰刺激症候群が発症すると卵巣が腫れて、採卵後に下腹部の強い痛みや違和感を生じることがあります。また、卵巣の肥大にともない卵巣がねじれると、強い痛みが繰り返し起こります。
麻酔の使用にはメリットとデメリットがあります
体外受精の採卵時の痛みに対して、静脈麻酔を使用した無痛採卵がおこなわれています。麻酔を使用するメリットとデメリットは次の通りです。
- 採卵の不安や恐怖感がない
- 痛みを感じない
- 意識がなく起きたときには採卵が終わっている
- 身体を動かさないため、採卵がスムーズに進む
- 意識がなくなるため、術中の記憶がない
- 麻酔にともなうリスク(アレルギー反応、頭痛、吐き気、呼吸抑制、血圧低下、誤嚥性肺炎など)がある
- 静脈麻酔の点滴部位の腫れや痛みが現れることもある
- 採卵後の休息時間が長く、帰宅後も安静が必要
採卵時の痛みは排卵針の太さが関係しています
体外受精の採卵時は、痛みや違和感を抱くことがあります。普段は痛みに強い方でも、不安が強い場合は、普段以上に痛みを感じやすくなるものです。
採卵時の痛みは医師の医療技術の他に、採卵針の太さが関係しているとされています。採卵針の太さは太いほど痛みが強いとされ、より細い針へ改良されつつあります。
採卵の際の麻酔はクリニックや医師によって方針が異なり、麻酔をまったくしないケースや、排卵誘発の方法により全身麻酔をおこなうところもあります。
多くの場合は、局所麻酔や静脈麻酔をおこないますが、基本的には採卵時の痛みは強烈なものではなく、麻酔なしでもまったく痛みが気にならないという場合や、耐えられる程度の痛みであるとされています。
しかし、不安を抱えながらの採卵は精神的にもストレスが大きいものです。痛みに対する不安が大きい場合は、あらかじめ主治医に麻酔の使用を希望する旨を伝えておくと安心です。
体外受精時の採卵は日帰りで受けられます
卵子を採取するというと、大がかりで入院が必要になるのかもと心配する方も多いのではないでしょうか。基本的には採卵は日帰りで受けることができます。ここでは、採卵当日の流れについて説明します。
採卵当日の流れ
採卵の6時間前から禁食、3時間前から水分も禁止となります。採卵予定の時間によって異なりますが、前日の夜か当日の朝から絶飲食となります。採卵当日は媒精の必要があるため、パートナーと一緒に来院または、自宅で採精した精子をご持参ください。
当日の体調の確認や着替えをおこないます。また、麻酔をかける場合には点滴をおこないます。
卵子は卵巣内の卵胞で浮遊しているように存在しているため、経膣超音波で様子を見ながら膣より採卵針を入れ、排卵前の卵子を卵胞液ごと採取します。採卵作業は採卵する数によりますが5~10分程度で完了します。
採卵後には出血の有無や体調の変化がないか、1~3時間程度クリニックで様子を確認します。特に麻酔を使用した方は、転倒などの不安がありますので、ゆっくり休息を取ってからの帰宅となります。
帰宅後の生活は通常通りに過ごしても大丈夫です。ただし、身体にとっては負担になることをおこなっているため、なるべく静かに過ごすことをおすすめします。なかでも麻酔を使用した方は負担が大きいため、1日ゆっくりと過ごすように心がけましょう。
採卵当日に気を付けること
採卵当日に気を付けておくべき注意点を紹介します。
採卵中~採卵後の体調不良の判断材料のひとつとして、顔色を見る必要があるため、できるだけメイクはしないようにしましょう。
採卵日は、マニキュアやジェルネイルを落として来院しましょう。「採卵なのにどうして関係あるの?」と疑問を抱く人が多いですが、これにはきちんと意味があります。
採卵をおこなう際にはほとんどの場合、麻酔を使います。この採卵の術中には手の指の先に脈拍や血圧を測る機会を付けますが、ネイルをされている場合測定ができなくなってしまうためです。
マニキュアであれば前日に自分で簡単に落とすことができますが、ジェルネイルはサロンに行かないと落とせません。採卵日付近にジェルネイルをおこなうのは避け、採卵の日までには落としておきましょう。
採卵日に麻酔を行う場合、術後2時間くらいは安静にしてから帰宅します。それでも、眠気が残ったり、注意力や集中力、反射運動能力が低下したりすることがあるため、危険ですので自分で車や自転車を運転して来院しないようにしましょう。
質のよい卵子を採卵するために心がけることがあります
質のよい卵子というのは、正常な受精卵になり、着床し妊娠に至る可能性が高い卵子です。体外受精で採卵をする際は、できるだけ質のよい卵子を採卵したいものです。ただし、卵子の質が年齢とともに低下してしまうことも確かです。では、どうしたら年齢にとらわれずに妊娠できるのでしょうか。ここでは質のよい卵子を採卵し、妊娠の可能性を高めるために心がけるポイントを紹介します。
適度な運動をする
適度な運動をして心拍数を上げると、全身の血流がよくなり体温が上がることで、冷えの改善につながります。冷えは万病の元というように、卵胞発育時の身体は冷やさないように気を付けましょう。天候や体調で運動ができないときは、その代わりにゆっくりお風呂に入って、体を温めるようにするのもよいでしょう。
また、肥満も痩せすぎも不妊のリスクとなります。体重を調整するためにも、定期的な運動が大切です。また、適度な運動はストレス発散にもなります。不妊治療中のストレス解消のために、手軽なウォーキングなど適度な運動を心がけるようにしましょう。
バランスのよい食事をとる
不妊治療において、妊娠しやすい身体を作るには日頃の食生活が重要です。糖質、脂質、たんぱく質、食物繊維など、必要な栄養素をバランスの良くとることがとても大切です。妊娠しやすい身体を作るうえで、心がけて摂りたい栄養素や食材を紹介します。
タンパク質は余分な糖質と結合すると変性・劣化し終末糖化産物(AGE)という身体を老化させる原因物質となります。AGEは卵子も劣化させる原因になると言われています。AGEを蓄積させないためには、高タンパク、低糖質がおすすめです。むやみな糖質制限をせずに高タンパク食に気を付けながら、質のよい脂質もしっかりとることをおすすめします。
そのため、高タンパクな食材である豆類、肉、魚、卵などは意識して毎日摂るとよいでしょう。豆類は、豆料理や豆腐、納豆など毎日無理なく摂れるように工夫し、肉は脂肪の少ない赤身の肉を選び、調理も油を控えめにするようにしましょう。
ビタミンDは免疫作用の調整に対して期待されており、ビタミンD濃度と妊娠率には関係があることがわかってきました。ビタミンDを含む食材としては、干しシイタケ、紅鮭、しらす、きくらげ、ウナギなどがあります。また、ビタミンDは日光を浴びることで体内で合成されます。
鉄は子宮内膜を作る材料と言われています。また貧血を予防または治療するためにも、鉄を含むほうれん草やひじき、小松菜、豆腐や赤身の肉、魚などを心がけて摂るようにしましょう。
葉酸は胎児の神経や脳の発育に必要な栄養素です。妊娠している方だけでなく、これから妊娠する方にとっても積極的な摂取を推奨しています。葉酸を含む食材としては、レバー、ほうれん草、小松菜、春菊、アスパラガスなどがあります。また葉酸を活性化するために必要なビタミンB12を一緒にとることも大切です。ビタミン12を含む食材としては、レバー、あさり、さんま、イワシなどがあります。
不妊の方は、妊娠しやすい身体を作るために、今までの食生活を見直すことが大切です。
アルコール・喫煙・カフェインを控える
不妊治療中に控えた方がよいものを紹介します。
アルコールの過剰摂取は、不妊治療中かどうかにかかわらずおすすめできませんが、男女とも体外受精のリスクであることが報告されています。女性では卵子回収率、妊娠率低下、流産リスクの上昇、男性では流産率の上昇です。連日または過剰にアルコールを摂取するのは控えるようにしましょう。
ただし、飲酒の習慣がある方にとっては、禁酒自体がストレスになるため、適量を心がけ生活の楽しみにするのはよいでしょう。
喫煙は、ニコチンや一酸化炭素などの有害物質を含み、がんをはじめさまざまな疾患の原因になることがわかっており禁煙がすすめられます。特に不妊治療中は、必ず禁煙するようにしましょう。世界保健機構(WHO)では、不妊治療を受ける場合、喫煙の習慣によって妊娠成功率が大幅に落ち、体外受精の回数が2倍になることがあると提言しています。
アメリカの生殖医学会でも、女性が喫煙することによって明らかに妊娠成立が遅れることや、閉経までの期間が短くなることで、妊娠できる期間が短くなることを報告しています。日本においても同様に、女性の喫煙が生殖能力の低下に影響することを認めています。
そのメカニズムは明らかにはなっていませんが、不妊治療中においては、卵子の透明帯を厚くして、受精障害、着床障害などを引き起こすとも考えられています。
妊娠前や不妊治療中のカフェイン摂取との関係が研究されており、不妊治療中は、カフェインを過剰に摂取することは控えましょう。
カフェインは、コーヒー、紅茶、緑茶、エナジードリンクなど多くの飲食物に含まれていますが、適量のカフェイン摂取であれば、不妊治療に対してあまり影響がないこともわかっています。適量を心掛け、カフェインが過剰摂取にならないように、飲食物をとるときにカフェインが含まれているかどうかに注意することが大切です。
痛みを軽減させるには?
痛みの感じ方は人それぞれですが、麻酔以外でも採卵中の痛みを軽減することができます。どのような方法があるのかを見ていきましょう。
細い採卵針の使用
細い採卵針の方が、膣壁や卵巣からの出血が少なく痛みを軽減することができ、採卵後の痛みも少ないことがわかっています。細い採卵針による卵子へのダメージはないといわれています。
坐薬の使用
静脈麻酔を使用するデメリットや、仕事の都合上、採卵後の休息が十分に取れない方には、痛み止めの坐薬で痛みを和らげることができます。
採卵後の休息
採卵後には、採卵による影響で下腹部の違和感や痛みが残る場合があります。局所麻酔では1時間、静脈麻酔では2時間程度、安静にしてゆっくりと休息することで、採卵後の痛みを和らげることができます。
痛みが心配な場合は無痛採卵をおこなっているクリニックを選びましょう
痛みに対してどうしても不安があるのであれば、無痛採卵を行っているクリニックを選ぶとよいでしょう。無痛採卵では、静脈麻酔を使用するため、眠っている間に採卵を済ませてしまうことも可能です。ただし静脈麻酔の使用には、前述の通りリスクもあるため、医師とよく相談のうえ、ご自分の不安な気持ちや希望を伝え、寄り添ってくれるクリニックで不妊治療をすることをおすすめします。
また、痛みに不安はあるものの、麻酔薬の使用にデメリットを感じる場合には、痛みを軽減する対策についてクリニックに聞いてみましょう。細い採卵針を使っている、静脈麻酔以外の鎮痛剤の使用など、クリニックごとの方針があるかもしれません。我慢せずに、痛みに対する不安や、痛みを軽減する方法についてよく相談して、安心して不妊治療を続けましょう。
(まとめ)体外受精の採卵時の痛みはどうやって乗り越える?
体外受精をおこなうためには、その準備段階から採卵まで、痛みをともなう処置や検査があります。採卵の際には、膣壁を通して卵巣に針を刺し採卵するため、採卵の数が多いときには特に痛みが強い可能性があります。体外受精のためには採卵しなければなりませんが、不安も強いことでしょう。最近では、痛みを軽減あるいは無痛にするために、クリニックごとにさまざまな手法で安心して採卵できるようにしています。
痛みを不安に感じることは誰しもあることです。不安を抱えたまま、あるいは痛みを我慢していてはストレスになり、不妊治療も辛くなることでしょう。不妊治療をおこなうクリニックで、安心して不妊治療を受けられるように納得するまで相談して、乗り越えていきましょう。
当院では、体外受精・不妊治療専門院として患者さまのストレスとなる“痛み”を極限までなくすことにこだわり、患者さま一人ひとりに合った治療をご提案しています。不妊治療をお考えの方は、ぜひご相談ください。