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妊娠に至るプロセス
妊娠は「排卵」「受精」「着床」といったプロセスで進みます。排卵された卵子は、卵管に取り込まれ、そこで精子を待ちます。精子と出会って受精に成功すると、受精卵は卵管を通って子宮に移動します。子宮への到達後、着床が成立すれば妊娠に至ります。こうした一連のプロセスのどこかに異常があると、不妊を招きやすくなると考えられます(図1)。
図1 妊娠成立のプロセス
竹田省,田中温,黒田恵司(編),データから考える不妊症・不育症治療 希望に応える専門外来の診療指針. メジカルビュー社 2017より作成
月経や排卵にかかわるホルモンの分泌
卵子は、卵巣内の卵胞で成熟を待っています。卵胞は、一定のリズム(月経周期)で分泌される脳の視床下部や下垂体からのホルモンの働きによって成長が促されます。卵巣内で複数の卵胞が成長を始めると、卵胞ホルモン(エストロゲン)が分泌されるようになります(図2)。
卵胞が一定の大きさになってエストロゲンが十分に分泌されるようになると、黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌が促進され、排卵のタイミングが訪れます。そこで、成熟卵胞の中にひそんでいた卵子1個だけが、袋の膜を突き破って卵巣の外に飛び出します。
図2 月経や排卵にかかわるホルモン分泌の仕組み
慈直昭,京野廣一(編),今すぐ知りたい!不妊治療Q&A 医学書院 2019より作成
排卵障害を引き起こす要因
視床下部~脳下垂体~卵巣という一連のホルモンの分泌の仕組みを含め、排卵のプロセスに異常がある場合を「排卵障害」といいます。排卵障害には、次のような要因があります。
過度のストレス・体重減少
卵胞の成長を促したり、排卵のタイミングを調節したりするホルモンは、脳の視床下部や下垂体によってコントロールされています。脳のこうした場所はストレスの影響を受けやすいとされ、これらの機能低下によって排卵障害が起こることがあります。過度な運動、短期間の急激なダイエットによる体重の減少は、脳の視床下部や下垂体に悪影響を与えるとされています。
高プロラクチン血症
プロラクチンとは、出産後、母乳の分泌を促すために脳の下垂体から分泌されるホルモンです。同時に、母体の回復が必要な時期に妊娠しないように、排卵を止める働きももっています。
妊娠・出産の時期にかかわらず、プロラクチンが過剰に分泌されてしまうのが、高プロラクチン血症です。原因には、下垂体の腫瘍、甲状腺機能低下症、ある種の薬(抗うつ剤や胃潰瘍治療薬)の副作用などがありますが、原因がわからない場合も少なくありません。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは、卵巣で男性ホルモンがたくさんつくられてしまうせいで、排卵しにくくなる病気です。月経不順や無月経、ニキビが多くなる、毛深くなるといった症状がみられます。排卵にかかわる黄体ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌のバランスが崩れて、LHだけが過剰に分泌されることや、耐糖能異常などが原因だと考えられています。
早発卵巣不全
40歳未満の早い時期に月経が来なくなるのが早発卵巣不全です。早発閉経とも呼ばれます。何らかの原因で卵子が急激に減少してしまったり、たとえ卵子があっても発育が障害されたりする病気です。ほとんどは原因が不明ですが、自己免疫疾患、染色体異常、卵巣の手術や化学療法、骨盤への放射線治療などが原因となる場合があります。
《参考資料》
竹田省, 田中温, 黒田恵司(編), データから考える不妊症・不育症治療 希望に応える専門外来の診療指針. メジカルビュー社 2017
鈴木秋悦, 久保春海(編), 新 不妊ケアABC. 医歯薬出版 2019
日本生殖医学会, 不妊症Q&A 平成25年4月
http://www.jsrm.or.jp/document/funinshou_qa.pdf